2002年2月発売
兼務寺の再建計画に伴う一億円の寄付。僧理洲は先物取引に溺れた自身の放埓な青年時代、「気」の力を知った厳しい修行時代を思い出していた。…再建が始まり、今度は見知らぬ人物から一円玉ばかりの高額の寄付が送られてくる。現役僧侶が描く人間とお金の物語。
母親が死んだ今、ビルの収入はまったくゼロになってしまった。母の死を届け出ず、死体を寝室に隠すところまでは知恵がまわったが、送られてくる年金の小切手を換金することが出来ないのでは、まったく同じことだ。もはや母親が溜め込んでいた食糧も底をつき、どうにもならない瀬戸際まで追い込まれていた。そこでビルが思いついたのは強盗だった。遊び仲間二人をさそって、手近な屋台を襲い、売り上げ金をいただくのだ。だが、やはりと言うべきか、襲撃は失敗に終わった。うろたえた仲間が店員を射殺してしまい、警察に追われて逃走中に起こした事故で仲間の一人は死に、金は沼に沈んだ。逃げ込んだ沼地ではもう一人が蛇に噛まれて死に、追ってきた警官も銃の暴発で命を落とし、ビル自身も虫の大群に襲われる。半死半生で沼地を抜け出したビルは、旅回りのカーニバルに拾われた。だがそこで暮らしていたのは、いままで考えたこともないような連中だった。やむなくそこへ身を隠し、彼らと生活を共にしながら逃亡を決意するビルだが、やがて…『ボトムズ』でアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞を獲得したランズデールのパワーが全開された会心作。
小学校の問題児ティモシーは、いつも突飛なものになりきってしまう。特に彼が狼男になっている時は警戒が必要だ。先生のたび重なる注意も聞かず、彼は女の子に噛みつき、学校は大パニックに…思いこみの激しい少年が引き起こす珍騒動を描く表題作。少年時代の記憶に捕われ、自分は幼児性愛者なのではないかと恐れる教育書の作家が、愛娘の教育に右往左往する姿が滑稽な「グリーンの本」。失業、破産、離婚と重なり自棄になったエディは、別れた妻の祖母から宝石箱を騙し取ろうと企み、家に行った。ところが老婆のとまらない思い出話を聞かされたあげく、一泊するはめに…思うように事が運ばずあせる男に意外な結末が待ちうける「ミセス・ボックス」。家族の人間関係のほころびを繕おうと奮闘する人人の姿が、皮肉な笑いを誘う。現代アメリカを代表する作家の粒ぞろいの9篇。
本書は、日進月歩の最新医療現場を舞台に、医学とは何か、という根源的テーマを扱った最も今日的な医学小説である。小児ガンを患い顔の半分を失うことになった子どもをめぐり、医療行為の迷路に踏み込んだ青年医師と、その両親を中心に、医療現場の関係者たちの緊迫したドラマが重厚かつクールな筆致で描かれる医学恋愛長篇である。人間の顔とは何か?北海道を舞台に、小児ガンの子をもつ飛びきり美しい母親と青年医師の悲痛な愛のゆくえをさぐる清新な筆致。
孤独な魂たちが引き起こす戦慄のテロリズム。若者の間で、密かにその存在を囁かれる“おやじ殺しゲーム”。体験者はやがて妄想に取り憑かれ、実際に無差別殺人を始めるという-現代社会の闇を抉る、渾身の書下ろしサスペンス900枚。
ある地方に伝わる奇妙なゲーム。秘密裏にゲームを引き継ぐ“サヨコ”のほかに、鍵を渡すだけのサヨコがいた-。もうひとつの小夜子の物語「図書室の海」ほか、あるウエイトレスの殺意と孤独を描くぞくっとする話、記憶を刺激する懐かしくも切ない物語、異色SFと、様々な物語を次々と紡ぎ出す恩田陸の世界を堪能できる1冊。
ポルシェ、グッチ、カルティエ、パークハイアット、東京シティクラブ…、特有の輝きを持つ固有名詞がいくつも、正博の日常にまぎれこんだ。けれど、まだ物足りない。いろいろな物事を手にすればするほど、強烈な飢えが湧いてきた。もっと金が欲しいのか、街での特別扱いなのか、見かけのいい女か、自分が何に飢えているのか、よく判らなかった。きらびやかな都会の表情にはもうすっかり慣れていたはずなのに、正博は、キャンティのドアに気後れしてしまった。東京レストラン・ストーリーズ。きらびやかな都会の夜にちりばめられたあやふやな恋、苦い野心、切ない男と女の物語。
ひと夏の狂おしく濃密な恋を描く「鶴」、パートナーを失った女性のひと夜の出来事「七夕」、別れた亭主が転がり込んだことから始まる再生の物語「花伽藍」ほか、いつか必ず別れが訪れると知りながら身を焦がしつづける女性達を鮮烈に彩り豊かに描く、珠玉の短篇集。
「一九三九年四月一日、ドイツ第三帝国、アメリカ合衆国に併合」平和バランスを崩壊させるこの歴史的な大事件に全世界は震撼した。総統兼州知事ヘス、米大統領ゲッペルスらによる世界征服遊戯の始まり。一投目の賽をしなやかに振る実業家ヒトラー。自由世界の雄、フランスは降伏し、パリは鉤十字の旗に蹂躙された。孤立するイギリスはかつての盟友、日本に援兵を請う。欧州に向けて出航する遣英義勇艦隊。率いるは小沢治三郎少将。エピソード3より遡ること二六〇年。日本人が選んだ亡国に直結する選択肢とは?すべてはここから始まった…。『新世界大戦』シリーズにおける第二次世界大戦の全貌を描く、大河架空戦記の冒頭を飾る真の第一巻、堂々の刊行開始。