2008年4月10日発売
貿易会社に勤める主人公に日常を東南アジアを舞台に描いた表題作「田園風景」、知り合いのアメリカ人夫婦の子供を預かる話「夏野」「向かいて聞く」、ほかに「コネティカットの女」「土手の秋」「寒桜」など九篇。明瞭な日常風景が、抽象世界へと転化し、人間の存在が、描かれる風景に同化し吸収されてゆく独得の世界を展く傑作短篇小説集。野間文芸賞受賞。
昭和十八年春、戦局の厳しさが愈愈容易ならざる時を迎え、武道以外を事実上認めない文部省によって東京六大学リーグ戦が禁止された。学徒出陣を目前に、早稲田・慶応両校の野球部員たちは、今一度早慶戦を開催したいと奔走し、ついに十月十六日、戸塚球場で戦争中最後の早慶戦が行なわれた…。感動の青春小説ついに文庫化。
美衣子は、理髪店を一人で切り盛りしてきたしっかり者の母親と、はずみで家に入れてしまった内縁の夫、青野と三人で暮らしている。ある日、青野の甲斐性のなさに愛想をつかして別れ話を切り出すが、男はなかなか出て行こうとしない…。男運にめぐまれない女たちの、ひそやかな心の動きを、乾いた筆致で描く長篇小説。
人生の関所を通り過ぎたいま、苛烈な思い出と和解を果たす。どこからきてどこへ消えたのかもわからないままのおばさんも、折り合いの悪いまま逝ってしまった父親も、故郷の廃屋に茂る夏草さえ、いまはただ愛おしい。医者であり小説家である著者が、魂の再生を静かに描いて、深い感動を呼ぶ八篇の連作小説集。
関東一帯で次々と発生する事件を、時に叡知で、時には豪剣の冴えで解決し、悪党どもには「強面」の印象が強い我らが桑山十兵衛も、小石川同心町の自宅に戻れば一介の御家人。ひょんなことから恋女房が実家へ戻ってしまい、その上、自身が何者かに襲われてしまう。果たして、十兵衛に安息の日々は訪れないのか…。
母と二人で大切にしてきた幼い妹が、ある日突然、大人びた言動を取り始める。それには、信じられないような理由があった…(表題作)。昭和30〜40年代の大阪の下町を舞台に、当時子どもだった主人公が体験した不思議な出来事を、ノスタルジックな空気感で情感豊かに描いた全6篇。直木賞受賞の傑作短篇集。