2016年11月11日発売
長春で敗戦後、木川正介は、毎日五馬路に出掛ける。知り合いの朝鮮人の配下となり、大道ボロ屋を開業して生きのびている。飄々として掴みどころなく、しかも強靱な怒りにささえられた庶民の反骨の心情は揺るがない。深い悲しみも恨みもすべて日常の底に沈めて、さりげなく悠然と生きる想像を絶する圧倒的現実。形象化した木山文学の真骨頂。著者最後の傑作中編小説。
愛媛県南予町の町役場職員・沢井結衣は、窓際部署と噂される“推進室”に異動した。決められた業務はなく、押しつけられるのは面倒事ばかり。ボンクラ町長は的外れな町おこし政策を打ち出すし、住民からは様々な苦情が舞い込むし、おまけに昼行灯の北室長と偏屈な一ツ木さんは、将棋ばっかり打ってるし…。悩める結衣だったが、田舎町の危機はすぐ近くに迫っていた!
両国川開き大花火の深夜、薬研堀で勘定組頭が斬殺された。刀を抜く間も与えぬ凄腕に、北町奉行所平同心の日暮龍平は戦慄した。先月の湯島切通しと亀戸村堤での殺しに続く凶行だった。探索の結果、いずれの現場近くにも深川芸者くずれの夜鷹の姿が。やがて、人斬りと女のつながりにとどいた龍平は、悲しみと憎しみに包まれた真相に愕然としー剛剣唸る痛快時代!
“奉行所に見放され、悲惨な末路を辿った人々の怨みを晴らしてほしい”公事宿大黒屋は真っ当な裁きも受けずのうのうと生きる悪の始末を託した。千坂唐十郎の直心影流の腕を見込んだのだ。唐十郎は許嫁を自刃に追いやった藩士を斬り脱藩、江戸へ逃れてきた剣客であった。早速、乾物屋主の不可解な失踪を探るが、鍵を握る男が斬殺されると別事件との関連が浮上し…。
若狭小浜城下から敦賀へと向かう若狭路。道中、騎馬軍団海天狗の乱暴狼藉を目の当たりにした金杉清之助は、南蛮兜の首領を船上の決闘で討ち果たした後、鯖江城下から永平寺へと足を運ぶ。武者修行に出て三年と四月。「血と怨念に穢れた身を浄め、初心に戻りたくなるときがございます」と申し出た若武者は、食を断ち、暗黒の岩穴に篭もる「三十三日闇参籠」に挑む。