著者 : 渡辺由自
白村江の戦いに敗れた百済の王子豊璋を平壌まで送り届けた祝大形と賀茂小角は、阿倍比羅夫から敗残兵を集めて倭国に戻るという任を与えられた。だが、途中、ふたりは唐人に襲われ、離れ離れなってしまう。大形は無事に敗残兵たちと合流できたが、小角は奇怪な術を操る盗賊の胡蝶尼に捕らえられてしまった。そして、倭国に仇成さんとする高向王の怨霊は、執拗に大形の命を狙う。
小国ガルダにてこずるアレクサンダーに、内なる敵が発生した。反ロクサネ派の謀反、軍に蔓延する厭戦気分、本国や占領地に飛び交う大王死亡のうわさ-。いずれも、長い遠征がもたらすひずみだった。類まれなカリスマ性で兵士の士気を鼓舞しながらも、アレクサンダーは一時的な撤退を決意したが、後を託せる人物として彼の脳裏に浮かぶのは、敵であるはずのシヴァであった。
額の傷痕が第三の眼に見えることから、破壊神の名をとってシヴァと呼ばれる盗賊の若者は、その猛々しい性格を疎まれて王宮を追放されたガルダ国の第四王子だった。胸の奥底に抱く全インド統一の野望を叶える術のないシヴァは、むしろ盗賊稼業を楽しんでいたが、時代の流れはいつまでもそんな状況を許さなかった。ペルシャを破った英雄アレクサンダーが、インドに迫ってきたのだ。
最大の敵・北ハートルプール帝国を倒すために、アランは三国同盟を結成したが、ラガリア皇帝の狡猾な作戦に翻弄され、戦線は整わない。シルバァは暗殺の危機にさらされ、リク皇子はバンクス教皇国の敵対行動に手を焼いている。フラット河口で帝国の黒海艦隊と戦っていたアランは、リク皇子と合流して苦戦の状況を打開しようと、帝国軍の主力が結集するラゴ山脈に向かった。
シルヴァをエルズミーアの王位継承者として認知させたアランは、ミクロン、ラインを加えて、これで三国を支配下に置くことになった。だが、肝心のお膝元のミクロン情勢が危うくなった。反アラン派のグリング・モーアらは、恋人だけでなく妹キャロラインまでを殺した奴隷上がりの男とアランを憎むジョアン皇女をたきつけて、一気にアラン抹殺の戦いを起こしたのだ。
奴隷から身を起こし、ライン国王となったアランは、ミクロンに凱旋した。ラインの残敵を一掃して城に入ったアランは、救国の英雄として民衆から熱狂的に迎えられたが、アランが異母兄だとは知らぬジョアンの態度は冷ややかだった。アランはあえてミクロンの王位につかず、南ハートルプール王国から攻撃を受けたのを機に、シルバァの故郷・エルズミーアへと戦いの旅に出た。
かつて神の国だったハートルプール大陸には三王国が鼎立し、周辺には四つの小さな島国がある。アラン・グッドハートは、その一つミクロンの国王が巫女に生ませた子供だった。父王とは似ても似つかぬ髪と眼の色を嫌われ、奴隷の身分に落とされて成長したアランは、父王への復讐の念と大いなる野望に燃えていた。乱世に王たる道を歩もうとする若者たちを描く、シリーズ第一弾。