制作・出演 : アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ
早いもので千住真理子もデビューから30年が経つ。ヴァイオリン協奏曲の“原点”ともいうべきバッハの3作品を選曲したのは、彼女の“新生”の出発点をほのめかすようだ。演奏からは豊艶ともいえる歌わせ方の熟成と“意気込み”が十全に伝わってくる。
指揮者としての本格的な活動を開始したペライア。弦楽合奏版の四重奏曲の指揮で豊かで広がりのある響きを聴かせる一方で、ソナタでは、自身も校訂に参画した新しいクリティカル・エディションの初演を弾く……。ペライアのアクティヴな活動を刻印した注目盤。
ロンドン交響楽団の首席に就任する2年前の録音。全音域を弱音から強音まで技術上の問題などほとんど存在しないかのようにムラなく吹きこなしている。肩の力が抜けたゆとりすら感じさせる演奏。マリナー/ASMFによるサポートもすっきりとまとまっている。
それこそヴァイオリンのアンコール・ピースの定番ともいえるメロディアスな名旋律を13曲収録。とはいえオケを伴奏にした豪華なアレンジによる贅沢な演奏で、艶やかな音色による甘美な歌いまわしが一層冴える。実力派のベルにしてはフッと息を抜かせるアルバムである。
バッハのソロ鍵盤楽器のための協奏曲全集を録音したペライアが、続いてブランデンブルク協奏曲第5番を録音。共演は協奏曲と同じく、自ら首席客演指揮者を務めるASMFだ。
あまりに才能に恵まれているために逆に芸術性の評価面で損をしているようなペライア。しかし74年のこの録音を聴くと、彼の本質的なセンスの良さと作品への読みの深さがはっきりとわかる。まろやかで潤いのあるしっとりとした美音といった特徴はそのままに、その演奏から感じられる若々しさがいまも少しも変わらないのは別の意味で見事。
ペライアの弾き振りによるバッハ協奏曲全集がこれで完結となる。音楽の流れを一瞬たりとも滞らせない推進力のある演奏なのに、聴き手の心にはいろんなものが引っ掛かりとして残っていく。洗練されていてどこにも刺がないのに、もう一度聴きたくなる。名演。