制作・出演 : 十代目
『寄席芸人伝』などのコミックはさておき、ライヴはむっちゃ昔に一度きり、まるでO.ヘンリーの小説みたいな人情噺じっくり聴けるかな……の杞憂を吹き飛ばしたCD。落語への造詣深く、円生はじめ名演を録り続ける京須ディレクターの、恋文のような解説が◎。
駄々っ子と無邪気な父親を描いた『初天神』は小三治さんの得意ネタのひとつ。男はいつまでたってもやんちゃであることをしっかり描く。有名噺だからこそ力量が問われる『時そば』も、うーむと唸ってしまうほどの絶品で、笑いの間が心をあたたかくする。
小三治もいまやベテラン。脂の乗っている一番いい時期に差しかかっている。器用な語り口じゃないけれど、けっこう重厚さが増してきてなかなかいい味を出している。師匠の小さんが得意としていた(1)もいいけど、(2)が小三治の持ち味が存分に出ている。
小三治の啖呵はときどきこわい。こわいけれどもどこか頼もしいから絶品なのだ。与太郎のふにゃふにゃでもときどき気がきいている風情は小三治ならでは。泥棒ものの「転宅」は少々めずらしい。さすがの年季女にやられる男心はほほえましいイイ噺。
88年8月の独演会で収録された「宗論」と「出来心」。カルチャー・ギャップをテーマにした前者にしても、泥棒を主人公にした後者にしても、大ネタとは言えない軽量級のポップな噺だが、それを超ヘヴィー級の本格派が本気で演じているところが聴きどころ。
まくらからさげまで、たっぷり小三治の思想が詰まりまくった“大らくだ”。アフリカ話をふるのも、それでOKなのも小三治のわかりやすく骨のある語りを誰もが知っているからだが、このらくだはまさしく凄い。凄すぎて落語史におったってしまうほど。
時間的な制約の少ない独演会での収録。重い話をべたつくことなくスマートに聞かせ、だからこそ胸の奥に響く小三治の芸風が堪能できる。奉公元からの休暇帰りの息子を描く「薮入り」では、語り口が渇いている分だけ、親子の情がとことんせつない。思わず泣いた。
88年録音の「百川」と90年録音の「厄払い」を収録した柳家小三治師匠のCD。「百川」の百兵衛にしても、「厄払い」の与太郎にしても、独自のヒューマニズムに裏打ちされた弱者への共感が生きている。これほど気持ちよく笑わせてくれる噺家はほかにいない。
『妾馬』は親子共演で、昭和30年に関西と中部では放送されたが、東京では未放送という貴重な音源。まだ元気いっぱいの親父と27歳という若さの伜の、活気にあふれた高座は気持ちいい。『鮑のし』も同時期の音源で、主人公の甚兵衞がいきいきと描かれている。