制作・出演 : 古今亭志ん朝
やぱり志ん朝はいいなあと思う。落ちついた芸だなあと感心させられる。『代脈』は名医が愚かな弟子を代診にやらせる噺。ほどよい愚かさに演じているのが志ん朝らしい。(1)が5パート、(2)が3パートに分れていて聴き直せるのもファンにはうれしい。
志ん朝といえば、四ツ谷にある某ふりかけ屋のCMやってる人でしょ? それくらいの認識しかない人はこのCDを聴くとよろしい。「芝浜」の魚屋、熊五郎といい、「百川」の田舎男、百兵衛といい、キャラクターが目に浮かぶ。明るく楽しい江戸前の落語なのだ。
「大山詣り」は81年、「粗忽の使者」は82年の三百人劇場でのライヴ。色気のある語り口、テンポのよさといい「大山詣り」は逸品もの。登場人物が若い衆ばかりに聞こえるのは、この時期の志ん朝ならではのもの。「大山詣り」はアルバム初収録ものだ。
どちらも81年4月17日、三百人劇場での高座。右肩上がりに加速がついた時期だけに、何とも言えないテンポの良さで、落語という話藝の魅力を十分に味わえる。『雛鍔』もそうだが、志ん朝演じるこまっしゃくれたガキのなんと活き活きとしていることか。
「明鳥」は81年4月、「船徳」は79年7月の高座。ようやくCD化されたということに、まず祝盃。文字通り、目に見えてうまくなっていった時期だけに、その躍動感が伝わってくる。噺家の色気というものは、やはり持って生まれるものなのだ、と改めて思う。
「居残り佐平次」は78年12月、「雛鍔」は81年4月の録音。「居残り」や、まだCDは出ていないが「酢豆腐」のように、何をやっているかわからない風若者を演じると、この人はバツグンの腕を見せる。ちょっと図々しく、ちょっとセコイけど、明るい若者がいい。
「愛宕山」は78年4月、「宿屋の富」は80年10月に三百人劇場で収録。たいこもちの一八の口先男ぶりが、いやになるほど出ている。チャランポランさの演技に男の色気がプンプン出ている志ん朝ならではの若々しさ。長いこと期待されていたひとの化けぶりを。