著者 : イアン・マキュアン
科学ジャーナリストの「ぼく」は、英文学者の恋人とピクニックにでかけ、気球の事故に遭遇する。一人の男が墜落死し、その現場で「ぼく」は奇妙な青年パリーに出会う。事件後のある夜、パリーが電話をしてくる。「あなたはぼくを愛している」と。それから彼は「ぼく」に執拗につきまとい始める。狂気と妄想が織りなす奇妙で不思議な愛のかたちを描いた、ブッカー賞作家の最高傑作。
1935年夏、13歳の少女ブライオニー・タリスは休暇で帰省してくる兄とその友人を自作の劇で迎えるべく、奮闘努力を続けていた。娘の姿を微笑ましく見守る母、一定の距離を取ろうとする姉セシーリア、使用人の息子で姉の幼なじみのロビー・ターナー、そして両親の破局が原因でタリス家にやってきた従姉弟ー15歳のローラ、9歳の双子ジャクスンとピエローらを巻き込みながら、準備は着々と進んでいるかに見えた。だが練習のさなか、窓辺からふと外を見やったブライオニーの目に飛び込んできたのは、白い裸身を晒す姉と、傍らに立つひとりの男の姿だった…。いくつかの誤解、取り返しのつかぬ事件、戦争と欺瞞。無垢な少女が狂わせてしまった生が、現代に至る無情な時間の流れの果てに、切なくももどかしい結末を呼ぶ。ブッカー賞最終候補。全米批評家協会賞受賞。
かつては共産主義者の同志として、そしてなによりも深い愛情で結びついていた夫婦バーナードとジューン。なぜ、彼らは突然破局を迎えたのか?私は義理の両親にあたる二人の人生に強い興味を抱き、回想録にまとめるため、独自に真相を探りはじめた。二人から話を聞くうち、やがて彼らが袂を分かった背後に“黒い犬”の存在があったことが判明する。犬の姿を借りた“悪”に出会い、すべてが変わったと主張するジューン。悪の象徴など、ジューンの妄想にすぎない、と一笑に付すバーナード。“黒い犬”は実際に存在したのか?それともジューンが生みだした想像の産物なのか?私は彼らの人生を影のように覆う“黒い犬”の真実を追究するが…。ヨーロッパ戦後思想史を背景に、鬼才が夫婦の魂と愛の軌跡をサスペンスフルに描く。イギリスでベストセラーを記録した、ブッカー賞作家による注目の長篇。
ぼくが14歳の夏、父さんが発作を起こして死んだ。そのとき家族に残されたのは父さんが買った大量のセメントだった。だからその翌年、今度は母さんが病気で死んでしまうと、ぼくは姉さんのジュリーといっしょにその死体をコンクリート詰めにして地下室に隠すことを思いついた。そうしないと、大人たちがやってきて姉さんとぼく、幼い弟や妹は離れ離れなってしまうから。こうしてぼくたち四人の子供だけの生活、やりたい放題の自由な毎日が始まった。ぼくは好きなだけマスターベーションにふけり、ジュリーはボーイフレンドと遊びまわり、妹は部屋に閉じこもったきり出てこない。が、やがて最高に思えた生活にも翳りが見えはじめる。そしてぼくとジュリーの関係にも大きな変化が…両親の死をきっかけに、思春期の少年が見出した楽園とその崩壊。現代英国文壇でもっとも注目を浴びる作家が、死体遺棄、近親相姦をテーマに放つ傑作長篇。
夏のはじめから、すべてに意味がなくなるまで、ぼくたちは開いたままの大きな窓の前で絡みあった。自分ではどうすることもできず、ぼくは妄想の世界、あの怪物の住む世界に引きこまれていく…少年と少女のひと夏の恋を、エロティシズムと恐怖を交えて綴った表題作をはじめ、大人の仲間入りを果たすために10歳の妹を誘惑する14歳の兄の姿を描いた出世作「自家調達」など、英国文壇の旗手が、時には残酷に、時には優雅に紡ぎだした八篇を収録。官能、恐怖、風刺、叙情…ブッカー賞作家の独自の世界が堪能できるデビュー作品集。サマセット・モーム賞受賞作。
ひとりの魅惑的な女性が死んだ。選ばれた男たちとの遍歴を重ねた途上で。元恋人の三人が葬儀に参列する。イギリスを代表する作曲家、辣腕の新聞編集長、強面の外務大臣。そして、生前の彼女が交際の最中に戯れに撮った一枚の写真が露見する。写真はやがて火種となり、彼らを奇妙な三角関係に追い込んでゆく。才能と出世と女に恵まれた者は、やがて身を滅ぼす、のか。98年度ブッカー賞受賞作品。
一瞬の隙に幼い娘が消えた-絶望の果てにバランスを失っていく妻と夫、危うい喪失感のうちに浮び上がる「もうひとつの記憶」…。倒錯的な美意識と痛烈な諷刺。イギリス文学界の奇才が、90年代の「暗黒郷」を幻想的に描く。ウィットブレッド賞受賞。
イタリアの古都を訪れた英国人カップル、コリンとメアリは、道に迷った夜ロベルトという地元の男と知り合った。ロベルトの家に招かれ、体が不自由な妻キャロラインに紹介された二人は、自分たちが奇妙な罠にはまったことを知る。幻想と現実がとけあう街で異常な愛の迷宮に囚われた男と女。『イノセント』の鬼才がエレガントに描く文学ポルノグラフィー。
冷戦下のベルリン。英国人の青年技師レナードは、英米情報部の秘密共同作戦のためにこの街に派遣されてきた。着いたばかりのある夜、レナードはナイトクラブで美しいドイツ女性マリアに声をかけられ、たちまち恋に落ちる。東側のソ連基地の通信を傍受するためにトンネルを掘るという秘密作戦に従事するかたわら、レナードの情熱は激しく燃えさかるが…。注目の英国作家が愛の悲劇をエスピオナージュ仕立てで描く話題作。
終戦後のベルリン。世間知らずの英国人青年技師レナードは、戦争の傷跡がまだなまなましいこの街に足を踏み入れた時、自分の人生が大きく変わろうとしているのを感じた。だが、行く手に待ち受ける恐怖までは予測できなかった。レナードが来たのは、英米情報部の対ソ連共同作戦、トンネルを掘って東側基地の通信を盗聴する〈黄金作戦〉に参加するためだったが、美しいドイツ人女性マリアと出会い、うぶなレナードは激しい恋におちる-運命を知らずに。注目の作家の、エスピオナージュ仕立ての話題作。