著者 : オリヴィア・ゲイツ
「そこにいるのは行方知れずのいとしい妻じゃないか!」その声に、医師のジュエルはどきりとした。元夫ロークの声だ。しかも彼は私を、元妻ではなく、“妻”と呼んだ。8年前、ジュエルはわずか5カ月の結婚生活の後、ロークのもとを去った。それはモデルだった彼女が、新たな人生を踏み出すためだった。ロークを心から愛するがゆえに、そうせざるをえなかったのだ。生まれてくるはずの子供を失った悲しみを忘れるためにも…。そして今、あの頃よりも成熟してたくましくなったロークとふたたび巡り合ったー協力して医療活動をするパートナーとして。ジュエルの苦い過去を知る、別れたはずの夫として!
7年前、ヴィヴは異国から来たガーリブを一途に愛した。けれど優秀なドクターでありながら一国の皇太子でもあった後は、ヴィヴとの関係を汚らわしい秘密のように周囲にひた隠しにした。そのうえ、泣きすがる彼女を、さよならも言わずに捨て去ったー思いがけず授かった小さな命を彼女の身に残して。彼が知る由もないその贈り物を糧に生きてきたヴィヴは今、ある決意を胸に、ガーリブとの再会に臨もうとしていた。今の彼が真実を知るに値する男性かどうかを見極めるために。それまでは、6歳になる息子のことは隠し続けなければ!息子を奪われ、私だけ追い出されたりしたら、私は生きていけない…。
飛行機事故に遭い、シブリーは生死の境をさまよった。一流の医師ロドリゴのおかげで一命はとりとめたものの、目覚めたときには記憶をいっさい失っていた。痛みと戸惑いの中、ぼんやりとわかるのは、ロドリゴを以前から知っていたこと、そして、どうしようもなく彼に惹かれていることだけ。もしかして、わたしたちは恋人同士だったのかしら?甘い期待は打ち砕かれる。彼女は既婚者で、しかも妊娠していた。うそ、わたしは経験がないはず…いったいどうなっているの?ロドリゴの表情が、何かを知っていると告げていた。
玄関のドアを開けてファルークの姿を目にした瞬間、すさまじいショックに襲われ、カルメンは凍りついた。ファルークは中東ジュダール国のプリンスで、1年半前に仕事を通じて出会い、すぐさま惹かれ合った。そこで二人は将来の約束をしないという合意のもと、3カ月という期間限定の恋人同士になったのだった。だがカルメンは約束の時を待たずして、ファルークのもとを去った。職を変えて転居までしたのに、見つかるなんて…。まさか彼は知ってしまったの?私がなぜ去ったかを。うろたえるカルメンに、ファルークは冷たい声で言い放った。「ぼくの娘に会わせてもらいたい」
アナスタシアが昏睡状態から目覚めたとき、そばにはイヴァンがいた。7年前、姿を消した恋人がどうして戻ってきたの?瀕死の傷を負ったアナスタシアを、彼は助けてくれたらしかった。そして、とまどう彼女を豪奢な自宅へと連れていき、離れ離れだった時間などなかったように熱く求めた。それでも、アナスタシアは不安でたまらなかった。以前、イヴァンはつき合って2カ月で突然いなくなったからだ。再会して2カ月後、彼女は体の異変に気づく。赤ちゃんができたと知ったら、イヴァンはどうするかしら?わたしのそばにずっといてくれる?それとも、また冷たく捨てる?
リリは怒りの炎に身を焦がしていた。勤務先の会社を買収した大富豪アントニオが会議を招集したのだ。地道な研究よりも金儲けを優先する敏腕実業家の彼は、きっと私たちを利益追求のためだけに働かせる魂胆だわ!しかし、現れたアントニオは目も眩むような美貌に謎めいた笑みを浮かべ、集まった人々の心をまたたくまに掌握してしまった。神々しいまでに華麗な彼に強烈に引きつけられるのを感じながらも、リリは反論したあとその場を飛び出す。追いかけてきた彼は言った。「きみはいまから経営者の一員だから、絶対に辞めることはできない」なんて冷酷なの。だが、言いしれぬ情熱に全身は燃え上がりそうで…。
ある晩、夜道で目にした人影に、イザベラは愕然とした。漆黒の闇から現れた、銀色の瞳の悪魔ーあなたは、リチャード!8年前、イザベラを誘惑しもてあそんで、無惨に捨てた男性だ。想いは封印したはずなのに、彼の瞳に射貫かれると、もう抵抗できない。イザベラは摩天楼のペントハウスで彼に組み敷かれ、激しい愛に溺れた。ところが、その直後、彼は非情にも言い放った。「今すぐアメリカから出ていってくれ。これは過去の関係の清算だ」そんな、いったいどうして…?混乱したイザベラはその場を逃げ出す。しかし翌日、仕事を終え帰宅すると、そこにはリチャードがいた。彼との別れののち、ひそかに産み育ててきた息子の隣に…。
人道支援活動のため国外へ出ていた砂漠の国ジュダールの王女ジャラは、突然兄に呼び戻され、不安を胸に帰国した。もしや母国の存亡にかかわる一大事が…?すると王宮では、思いもよらぬ人物が彼女を待っていた。サラヤ国王子、モハブ。かつてジャラの心をずたずたにした男性。彼がなぜここに?6年前ジャラはモハブと出会い、熱い恋におちたーそんな彼女をモハブは弄び、紙屑のように捨てた。甦る屈辱に震えるジャラ。だが、兄の口から信じ難い事実が告げられる。ジュダールとサラヤが戦争に突入するのを阻止するには、二人がただちに結婚する以外ないのだとー。
唯一の家族である母を看取ったあと、ジェイは故郷を離れた。恋も遊びもあきらめて看病に明け暮れた日々に別れを告げ、砂漠の国ダムホールで、人生の再スタートを切るつもりだった。現地の医師団に参加した彼女は、有能な外科医マレクと出会う。運命だった。命を救う闘いを共にするうち、二人は強く惹かれ合った。初めての恋ーけれどそれは淡くもやさしくもなく、灼熱の砂漠のようにジェイを熱く焦がした。だがマレクは、彼女の純潔をぎりぎりのところで拒み続ける。医師であると同時に王位継承者でもある彼は、妻を選べない立場にあることを、どうしても言い出せないのだった。O・ゲイツの記念すべき日本デビュー作。