著者 : ジャン・エシュノ-ズ
「ぼくは行くよ」と語り手は言う。でも、どこへ?北極へ、南仏へ、なにもないガレージへ。軽やかに錯綜する物語の糸が、やがてその空白の行き先をひとつに絞っていく。災厄を呼ぶ美女と善悪のコミカルな変わり身。エシュノーズの話術がもっともまろやかにブレンドされた、円環するロードムービー小説の快作。ゴンクール賞受賞作。
今から三十年前のパリ。二人の男が一人の女に恋をした。しかし女が選んだのは別の男。失意の二人。一人はそのまま失踪し、もう一人は東南アジアへ旅立ち、マレーシアのゴム園の臨時経営者に雇われ、汗みずくで成功を手にした。そして時は流れ、現代に。相続人の夫妻がゴム園に乗り込んできて、地位に不安を抱いた男は、現地人労働者達を煽動して反乱を企てる。男は武器を調達するため三十年ぶりにパリに戻り、暗黒街とつながる甥を巻き込み、ル・アーヴルから出る貨物船に潜り込んで、いざ出撃。
互いにそれと知らぬまま、莫大な遺産相続をめぐる奇妙な争いに巻き込まれてゆく従兄弟のジョルジュとフレッド。犯罪都市パリに繰り広げられる抗争は、アルプス山中の銃撃戦というクライマックスに向けて加速する。スピーディーな場面転換と全篇を彩るブラックユーモア。鬼才エシュノーズが放つスリリングな物語。
ジャン・エシュノーズ。’94年代も後半に差しかかろうとしている今、フランスでその存在が最も注目されている気鋭の作家である。’79年に作家デビュー、’83年にはメディシス賞を受賞。トゥーサン、ギベールらとともにフランス文学の次代を担う若手作家の一人として期待されてきたが、’92年発表の本書が本国フランスはおろか、ヨーロッパで30万部を超えるベストセラーとなり、彼は一気にフランス文学の最前線に躍り出た。それから2年、満を持しての日本デビューである。爆発事故の高速道路、大地震の街を抜けて謎の美女と男、そしてぼくは宇宙船に乗り込んだ。引力から解き放された三人は…。