著者 : チョ・ヘジン
「彼は希望を育む術と地の果てまで絶望する術を同時に鍛えなければならなかった」 脱北者の青年ロ・ギワンの足跡を辿るなかで、失意と後悔から再生していく人びとの物語。 英語版・ロシア語版も刊行された話題作 映画原作のロングセラー、日本上陸 申東曄文学賞受賞作 「命がけで国境を越え、最愛の人を失い、生きるためだけに見知らぬ国へと流れ着いたここまでの道のり。 それが何の意味もなかったことを受けいれなければならない、氷のように冷たい時間。 彼は、懐かしさだけで故郷を思い出す甘い時間は、自分には今後いっさい訪れないだろうと悟った。」 単身ブリュッセルに流れ着いた20歳の脱北者ロ・ギワン。 希望を見いだせず、自分を否定する日々を送っていた放送作家の「わたし」は、雑誌で出会ったギワンの言葉がきっかけで、彼の足跡を辿る旅に出る。 オンライン配信映画、2024年公開! 「なにものにも置き換えることのできない感情は、一度も会ったことのない他者の人生を通じてよみがえることもある。 ブリュッセルに来て、ギワンの供述書と日記を読み、彼が滞在した場所や歩いた街を辿っている間、ギワンはすでにわたしの人生に入り込んでいた。 だからこそ、今度は彼にもわたしのことを、彼自身が介入しているわたしの人生を知ってもらおう。 ギワンがわたしの人生へと歩んできた距離と同じ分、わたしもまた彼に向かって歩んでいくべきなのだ。」 日本の読者の皆様へ ロ・ギワンに会った 原註 作家のことば 推薦のことば……キム・ヨンス 訳者あとがき
疎外された者の絶望と孤独を優しく照らし、 現代社会に問いかける小品集 私たちは生きるのに精一杯で、誰かの痛みに関心を持つことは難しい。でもその痛みはいつか自分に降りかかるかも知れない。困難な時代に痛みが弱者に集中せずに、分散して和らぎ健やかな社会へと向かうには、「他者」の痛みに寄り添う営みが必要だ。無関心は残酷さにも気付けないが、誰かに救われた記憶は、また誰かを救う。傷ついた記憶すべき人々を忘却から引き戻し共感へと引き寄せる、優しくも力強いこの短編たちが誰かの希望となり、強者に押し込められた孤独から、救う者と救われる者を護り照らす一筋の光になることだろう。 光の護衛 翻訳のはじまり モノとの別れ 東の伯の林 散策者の幸福 じゃあね、お姉ちゃん 時間の拒絶 ムンジュ 小さき者たちの歌 解説 彷徨う存在の記憶と光(文学評論家・韓基イク) 作家のことば 訳者あとがき
《遠のく女にわたしは訊いてみたかった。 これからわたしはどこへ行くべきか、どこへ向かうべきなのかーー。》 傷つきながらも声をあげられずにいる人、社会から見捨てられた人たちへの、“同感”のまなざしが光る珠玉の短篇集。 米国に養子に出され、十五年ぶりに一時帰国した十九歳の〈きみ〉、結婚移民としてウズベキスタンから渡韓した高麗人三世の〈彼女〉、父の家庭内暴力の跡をからだじゅうに残している〈わたし〉--。 癒えない傷を抱えた人の心を繊細に描き、世代を超えて支持される七篇の中短篇。 「韓国人男性が女性にやさしいのは知ってるわ。韓国ドラマを毎日観てるから。これからはうちの姉も韓国人よね。だから韓国の男の人が韓国人女性に接するように、同じように大事にしてあげてね。お義兄さんに望むのはそれだけ」 「韓国人と結婚したからって韓国人になれるわけではないってことを、わたしもわからなかった。たとえ運良く韓国籍を取得したとしても、わたしは端から何者にもなれない境界線に佇む人間でしかないの。結局、わたしも父も、同じ列車に乗っていたってわけね。つまり……目的地を持たない貨物列車はいまなお走り続けているのよ。わたしは身ひとつで、行き先もわからない列車の中から外を眺めているだけ」 天使たちの都市 そして、一週間 インタビュー 消えた影 背後に 記念写真 女に道を訊く 作家のことば 日本の読者の皆さんへの手紙 訳者あとがき
お母さん、聞こえますか? 私はこうして生きています。 幼少期、海外養子縁組に出されたナナは、フランスで役者兼劇作家として暮らす。 そんな彼女に突然、人生を変える2つの知らせが届く。 別れた恋人との間に子どもを妊娠したことと、韓国から来た、自分の人生を追ったドキュメンタリー映画への出演依頼と。 生みの親を知らないナナは、生まれてくる子どものためにも自分が“誰なのか”を見つけようとソウルへ向かう。そして、思いもしなかった人たちとの出会いから、35年前、駅に捨てられた暗い記憶の糸が少しずつほぐれていき……。 海外へ養子に出された子どもたち、米軍の基地村で生きた女性たち……。 現代韓国の歴史の中でなきものとされてきた人たちに、ひと筋の光を差し込む秀作長編小説。 第27回大山文学賞受賞作 韓国系国際養子のルーツ探しというこの小説の「特殊な」主題が、日本の読者の方々に「普遍的な」ものとして届くようにと、そして誰かがこの作品を読んでいるとき、生命への尊重や人と人との絆への信頼という明かりが灯ってくれたらと願っています。(「日本の読者のみなさまへ」より)