著者 : パトリシア・レイク
二十歳のマリークレールは、傷心旅行でスイスまでやってきた。ホテルに着いたとき、ちょうど出てきた男性とぶつかってしまう。精悍な顔だち、冷たさすら感じるようなグレーの瞳をした彼は、このホテルのオーナー、リー・ハーパーだった。男性とはもう関わらないと心に決めていたのに、苦しいほど胸が高鳴る。それもそのはず、マリークレールがまだ学生だった5年前、リーに車で轢かれかけたときに優しくされ、密かに恋をしたのだった。まさかこんなところで…もう二度と会うこともないと思っていたのに。ところが、リーは彼女を覚えていただけでなく、熱い誘惑を仕掛けてきた。「マリークレール、きみは逆らえはしないんだ。逆らわせはしない」
見覚えのある姿が目に入った瞬間、心臓が止まりそうになった。3年前、ターリアは裕福な実業家アレックスと激しい恋に落ちた。まだ若かった彼女は身も心も捧げたが、アレックスは違った。ターリアを裏切ったばかりか、自分の秘書と密会していたのだ。傷心のままターリアはアレックスの前から姿を消すが、そのときはすでに、彼女のおなかに小さな命が宿っていたーよるべないターリアがどれほどの辛酸を舐めて息子を育てたか、アレックスには興味もないだろう。だが、彼女はすぐに思い知る。彼が全てを調べあげた上で、ある狙いをもって会いに来たのだと。
スイスの寄宿学校を卒業したレクサは、2年ぶりに家族が待つロンドン郊外の屋敷に戻ってきた。母を亡くした今となっては、誰とも血のつながりはないが、それでもレクサは心待ちにしていたー義父や義兄たち、何よりひそかに慕っている長兄ジェースとの再会を。実業家として成功したジェースはさらに大人の魅力を増して、彼を前にするとレクサの胸は高鳴り、頬はおのずと赤らんだ。もちろんそのときは知る由もなかった。淡いこの恋が、家族を壊してしまうほど辛い愛の始まりだとは。
ローラがトムと出会ったのは、ロンドンの雑踏に立つ、古ぼけた骨董品店の前だった。ウインドーの中の、銀の小箱に見とれていた彼女に、トムが声をかけたのだ。以来、共通の友人を通して顔を合わせるたび、トムが向けてくるまなざしに、ローラの胸は甘く高鳴る。だが彼は、お金と時間と女性をもてあました15歳も年上の放蕩者。長年別居している妻がいるのにフランス人の美しい恋人を連れている。周りが囁くそんな噂に苦しんだローラは、彼への想いを断とうとした。それなのに、トムはあの小箱を彼女に贈り、激しく唇を奪った。噂を盾にこの愛を拒むことなどできないと、刻印するかのように。
婚約者に裏切られた心の傷を癒すため、マリークレールはスイスに来ていた。ホテルに着いたとき、ちょうど出てきた男性とぶつかってしまう。ホテルのオーナー、リー・ハーパーだ。男性とはもう深くかかわるまいと心に決めていたのに、彼の精悍な顔立ち、グレーの目で見つめられると、息苦しくなるほど胸が高鳴った。白銀の山々に抱かれた美しい町で二人は惹かれあい、結ばれる。「結婚しよう」リーの言葉に、マリークレールは素直に頷いた。嫉妬と誤解に苛まれる結婚生活が待っているとは、露ほども思わず。