著者 : フラン・オブライエン
海辺の町ドーキーでミックが知りあった紳士ド・セルビィは、人類救済のための世界破壊を企て、大気中の酸素を除去する物質を研究していた。嘘か真か、時間の停止にも成功したという。一方、ミックは行きつけの酒場で「ジェイムズ・ジョイスが死んだという話は眉唾物だ」と聞かされる。死者との対話、自転車人間説や生きていたジョイスなど、全篇に溢れる奇想とほろ苦いユーモア。アイルランド文学の異才、最後の傑作。
のらくら者の大学生の語り手が執筆中の小説の主人公トレリスは、二十年も部屋にこもりきりの作家である。トレリスは自分が創造した作中人物を同じホテルに同居させ、監視下においているが、作中人物たちは自分の意志をもち作者の支配を脱して動きだし、物語は錯綜をきわめていく。小説の中の小説という重層的な語りの中にアイルランドの英雄伝説や大学生の日常を盛り込み、瑞々しい活力に溢れた豊饒な文学空間を創造した傑作。
あの老人を殺したのはぼくなのですー出版資金ほしさに雇人と共謀して金持の老人を殺害した主人公は、いつしか三人の警官が管轄し、自転車人間の住む奇妙な世界に迷い込んでしまう。20世紀文学の前衛的方法、神話とノンセンス、アイルランド的幻想が渾然となった奇想小説。
20世紀初頭のアイルランドのダブリン、両親を早くに亡くして孤児となったメイナスとフィンバーの兄弟は、義理の伯父コロッピー氏に引き取られ、その家で暮らすことになった。友人の神父と議論にふけり、何やら重要なプロジェクトを画策中らしい変り者、コロッピー氏の独自の教育方針の下で二人は育てられるが、やがて兄メイナスは綱渡り術の通信講座というイカサマ商売を考案、怪しげな教本の出版販売や競馬のノミ行為など次々に事業を拡大し、ロンドンへと出て行った。その後、コロッピー氏が重い関節炎に悩んでいることを聞いたメイナスは、奇跡的特効薬“豊満重水”を贈って服用をすすめるが、この薬が思わぬ事態を引き起こすことに…。奇想小説『第三の警官』で知られるアイルランド文学の異才フラン・オブライエンの「真面目なファルス」小説。