著者 : マーガリート・ケイ
これから夫と会うー8年間、一度も顔を合わせていない夫と。リリーは亡き兄の最期の願いで、兄の親友オリヴァーと結婚したが、今、侯爵位を継ぐ彼が自由に生きられるよう、離婚を申し出るのだ。この結婚は、内輪だけの挙式後、すぐに別居生活が始まった。だから終わらせるのも簡単なはず。なのに、なぜこんなに心が乱れるの?一方、爵位と領地を継ぐには既婚者でなければならないと知り、オリヴァーは困っていた。妻リリーの存在は世間に公表していないのだ。余命わずかな親友の願いを叶えるための、形ばかりの結婚だったから。そんななか折悪しく、リリーが離婚したいと言いにやってきた。どうしたものか…。妖艶になった妻を見て、彼の悩みは深まるのだった。
目が覚めたら、ヘンリエッタは壮麗な屋敷の寝室で横たわっていた。下着姿に、髪は乱れ、あげくに泥のにおいを漂わせている。ふと気づくと、ベッドカーテンの陰に男性が立っていて、そのたぐいまれな美しさを見て、彼女は我が身を恥じた。「ここはどこ?」相手の答えに、ヘンリエッタはうろたえた。そこは彼女が家庭教師として仕える家に隣接する伯爵領だったのだ。つまり彼は、不道徳な噂が絶えない放蕩伯爵レイフ・セント・アルバン。側溝に倒れて気を失っていた彼女を拾って、ここまで運んだという。いったい私の身に何が?このはしたない格好は、まさか伯爵様と…?かたや彼女の疑念を見透かしたレイフは、頭の中で毒づいた。世慣れたこの僕だ、こんな無垢な村娘になど用はない!
社交界にデビューして数年になる伯爵令嬢のクレッシーは、いつまでたっても嫁ぎ先が決まらず、肩身の狭い日々を送っている。5人姉妹の中でいちばん不器量なわたし。一生花嫁にはなれないのかしら?そんなある日、娘を政略結婚の駒としか考えていない父親から、とどめを刺すような命令が飛んできた。“今年はもう社交界に顔を出さず、弟たちの家庭教師をしろ”しかたなくやってきた田舎の屋敷で顔を合わせたのは、信じられないほど美しい男性、ジョヴァンニ・ディ・マッテオ。クレッシーは熱い視線を送ってくる彼に戸惑いながらも魅せられる。彼が身分を偽って英国に来たイタリアの伯爵家の御曹司だとは思わずに。