著者 : 中井ゆみ
ハ-トを盗まれてハ-トを盗まれて
新聞に載っている写真に、ジャズは驚いた。イーサン・ワイルディング。ボストンの名門出身の銀行家。私を泥棒とまちがえた男-。非行少年カウンセラーをしているジャズは、腹を立てていた。まったく言いがかりもはなはだしい。車のホイールキャップを盗んだ少年をさとし、それを元の場所に戻してあげただけ。それなのに、車の持ち主に泥棒と思われてしまうなんて。後日、こんな相手に再び会うことになるとは夢にも思わなかった。
スペイン古城の一夜スペイン古城の一夜
「きみにそっくりだ」プラドー美術館に飾られた聖母マリアの絵を前にしてしかも、姉のヘルミオネが結婚を望んでいる相手のシルバーラ伯爵が口にした言葉はヴァレーダを不思議な気分にさせた…。娘の家庭教師として素性を偽り、スペイン訪問に同行してほしい-という姉のヘルミオネの頼みをききいれはしたものの、静かな田舎の暮らしとはまるで違うスペインの日々はヴァレーダには驚くことばかりだった。
砂漠に花ひらく恋砂漠に花ひらく恋
父の勧める縁談は逃れようもない。一計を案じたヴイータは父に旅行をねだった。イタリア旅行と見せかけて、いとこのジェーンが住むシリアに向かうつもりなのだ。アラビアのシークと5度目の結婚生活をおくる恋多き女性ジェーンなら、きっと相談にのってくれるにちがいない…。もうすぐベイルート-そのとき、埠頭の群集の中でひときわ背の高い男性の姿が、ヴイータの目に飛び込んできた。