著者 : 中嶋隆
時は江戸宝永年間、富士山大噴火と大地震の巷から船出した三度の渡海の物語──西方浄土に向けて、僧を小舟に閉じ込め、熊野灘の荒海に流す、世に名高い補陀落渡海顚末。 果たしてそれは、大破局の地獄絵から衆生を救う捨て身の行たりえたのか。親殺しの汚名と、裏切りと、人肉食の破戒……俗世の底の底をうごめくものたちが、渡海のはての仮死の境で目にしたものとは。 生きとし生けるもの、ことごとくに仏性が具わる。世間知を破り、人間の条件すら踏み抜いたとき、そこに光と呼び声が……。 小説・破局をくぐる信と愛と光と。 「あとがき」より 私は、 ……古代・中世の補陀落渡りを、元禄末・宝永期のこととして、この物語を書いた。市井の人々の生命と信仰とが、そこ に凝縮していると考えたからである。この時期には、小田原城が倒壊した元禄大地震、四国・近畿に大被害を及ぼした宝永大地震、さらに富士山噴火と、天変地異が続いた。未曾有の大災害のさなか、信仰心を持ち続け、煩悶しながら生きた人々が、この物語の主人公である。 渡海 その二 始章 那智の賭場 六章 宝永大地震 渡海 その一 七章 悪人 一章 出会い 八章 観音狂い 二章 兄妹 九章 強請り 三章 「犬」と尼 渡海 その三 四章 鴎の助七 十章 再会 五章 破戒僧 十一章 復帰 十二章 別離 十三章 遺された者 十四章 最後の渡海 終章 再び、那智の賭場
ナマリ千代は、朝鮮でそして日本で、両親や兄弟、夫や子ども・孫を殺され、一人長崎にいた。島原の乱後、農民の子として育てられたジュリア須美は、困窮のため大坂の新町遊郭に売られ、太夫(小太夫)となる。人にはマリア様との果たすべき「御約束」があると信じていた二人。千代の「御約束」は須美に仕えることだった。そして、須美の「御約束」となった壮大な企てを実行に移そうとしていた…。
江戸柳生道場の四天王の一人と言われていた大木歳三は、吉原で人を殺め京都・島原遊廓に流れてきた。歳三には大門脇の番屋に詰める男の名跡「与右衛門」の名前もあった。美しき女たちが集うきらびやかな遊廓に、色と欲とが絡み合う。仇討ちの意外な真相が明らかになる人情話、暗号解読の謎解き、政にまつわる陰謀劇、はては怪談まで。島原を仕切る「十字のお頭」、配下の幇間・願西とともに、廓で起こる厄介事を、刀を捨てた歳三が次々に解決していく。研究者の知性と抑制された文章が生み出す、上質なエロティシズムとサスペンス。江戸元祿を舞台にした艶物時代小説。