著者 : 中江有里
「ママ、けいさつにつかまらないでね」罪を犯し愛を諦めた母娘の半生。里美は、娘の汐里と2人で暮らしている。若い頃の前科が原因で家族からは疎遠になり、やがて生活に困窮した里美は罪を犯してしまう……。愛を夢見て、妬んだ里美と、愛を求めて諦め、姿を消した汐里。一度は訣別したふたりだが、再び巡りあい、そして……。あらゆる母娘に、愛は存在するのか。
「書く」ことが、絶望を超越した かつては誤解に基づく激しい差別と偏見に晒されていたハンセン病。青年・北條民雄は、その病に罹患し、同病者だけが共同生活を送る療養所に入る。社会から隔絶された絶望的な状況の中で、北條が生きる希望を見出したのは「書く」ことを通してだった。書簡を通じて私淑した川端康成の支えもあり、芥川賞の候補にもなった代表作「いのちの初夜」。この作品を読んで衝撃を受け、大学で北條民雄について研究したという俳優・作家の中江有里さんを講師に迎え、現在のコロナ禍で改めて顕在化した差別や偏見というテーマについても考えながら、みずみずしくも巧みに練られた物語の中に、絶望の底にあってもなお折れない「生きる」意志を読みとく。
百花と千愛は3つ違いの姉妹。両親のもと成長していたが、ある日両親が離婚する。 父の元へ引き取られた百花と、母の元へ引き取られた千愛。離れて暮らすようになって30年が過ぎ、39歳となった百花は、制作会社の契約社員として働いている。 ある日、担当している番組の百花宛に1通の手紙が届く。長らく会っていない妹・千愛からの手紙に驚きながらも、手紙の内容から千愛からのものだと確信し、返信にメールアドレスを書いておいた。 それから2人のメールのやり取りが始まる。千愛はすぐに、重大な事実を知らせる。 会えなかった間の30年の間を埋めるように、互いの辿った道を綴る。 父の再婚相手との関係がうまくいかず、早くに自立した百花。母子家庭で困窮状態にあったが、結婚を経て、1児の子育てに忙しい千愛。最初に語り合ったのは、そんな表向きのことーー。 距離が近づいていくうちに、心の底に仕舞った思いをぶつけあっていく2人。 共有できない母との思い出、途切れた時間は再びつながるのか……。
中学で登校拒否になった沙羅は、一年遅れで入学した通信制の高校で 幼馴染だった万葉に再会。読書好きの万葉に読書の楽しさを教えられ、 自分なりに本を読むように。一方で、大学に進学した万葉は、 叔父さんの古本屋を手伝いながらも将来に迷いを感じていたーー。 宮沢賢治「やまなし」、伊藤計劃「ハーモニー」、福永武彦「草の花」など、 実際の本をあげながら描く瑞々しい連作短編集。
30歳の大倉玉青は、人材派遣会社に登録し大手通信系企業の受付として働いている。大学時代は、演劇サークルに所属していた。愛読書の『走れメロス』をバッグに放り込み、苦行のような満員電車に乗り職場へ通うのは、ただ生活のためだけだ。その生活が空虚で、何のために生きているのかわからない。彼女は、5年前の自分の選択に端を発するある「秘密」を抱え、その秘密に関わる者の存在を「希望」と感じながら、日々を過ごしていたーー。 女優・執筆活動などで多彩な才能を見せる著者が、「入れ替わり」の起きた姉妹を主人公に現代的テーマに迫った、痛切な「命」の物語。
結婚して幸せになるために必要なのは、愛、打算? それとも……。新郎新婦を巡る披露宴の物語。まだ肌寒い春の、とある結婚式場。美しく若い花嫁とカバのような花婿という、年の差婚カップルの披露宴に集った客たちはそれぞれ、偽装、詐欺、婚前不貞という闇を抱えていた。そして一見、幸せの絶頂にいるように見える新郎新婦には、2人だけの秘密の約束があった……。恋人、夫婦、家族の新しい関係を提案する連作短編集。
奥田英朗、荻原浩、原田マハ、窪美澄という実力派の直木賞・山本賞作家に、新鋭の中江有里を加えた、豪華執筆陣によるアンソロジー。テーマは“恋愛”。 28歳の彩子は、付き合って3年の恋人が相談もなく会社を辞めたことにショックを受ける。女友達は条件のいい男を紹介してくれ、彩子は恋人との別れを考え始めるが……。(奥田英朗「あなたが大好き」) 16歳の僕は、夏を海で過ごすためにばあちゃんの家に来た。夕暮れの砂浜で、その人は子守歌を歌っていた。……とても悲しそうな声で。(「銀紙色のアンタレス」) 1969年、中学生だった僕と彼女は50年後に一緒に宇宙に行く約束をした。その年まであと4年のいま、彼女は病院のベッドの上にいる。(荻原浩「アポロ11号はまだ飛んでいるか」) 生まれも育ちも京都の善田は、半年前に妻を亡くし、会社を追われ、タクシー運転手となった。ある日、ボストンから来た老婦人をタクシーに乗せ京都を案内することに……。 (原田マハ「ドライビング・ミス・アンジー」) 両親が離婚したミサトは、クラブを経営する母親行きつけの美容院のシャンプーボーイと、偶然海の家で会うが……。(中江有里「シャンプー」)