著者 : 住谷春也
四十を過ぎて一念発起、ルーマニア語の世界に飛び込んだ著者。たちまちこの情感豊かな言語と、それが紡ぎだす詩や小説の虜になる。爾来四十数年、訳した作品は数知れず。ミルチャ・エリアーデの主要小説をはじめ、リビウ・レブリャーヌ、ミルチャ・カルタレスクからルーマニアの民話やバラード、SFにいたるまで、手がけた翻訳の解説・解題をまとめた本書は、ルーマニアの文学世界への格好の導きとなる。著者のルーマニア愛が溢れる一冊。 はじめに 松本からブカレストまで 第一部 ルーマニア文学雑考 近代ルーマニア文学史概観─『東欧の想像力』より ウルムズ、場違いのシュルレアリスト リビウ・レブリャーヌと『大地への祈り』 リビウ・レブリャーヌ『処刑の森』 知られざるホロコースト マリン・プレダ アデラ・ポペスク詩集『私たちの間に─時間』 パウル・ゴマ『ジュスタ』 ミルチャ・カルタレスク『ぼくらが女性を愛する理由』 ミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』 ブロンドの巻き毛─わがルーマニアSF事始め─ ギョルゲ・ササルマン『方形の円』 ルーマニア民話の世界 ルーマニアのバラード 【コラム】「名前の日」とお国ぶり/ルーマニア語の敬語 第二部 エリアーデに導かれて ルーマニア精神の星エリアーデ ミルチャ・エリアーデの幻想 ミルチャ・エリアーデの神秘文学の秘密─『19本の薔薇』の文学的遺言をめぐって 『令嬢クリスティナ』 ミルチャ・エリアーデと妖精たちの間 あるルーマニア人─ミルチャ・エリアーデのパリ時代 永遠への告白 『エリアーデ幻想小説全集』〈第一巻〉 解題 『エリアーデ幻想小説全集』〈第二巻〉 解題 『エリアーデ幻想小説全集』〈第三巻〉 解題 『迷宮の試煉』 【コラム】映画「コッポラの胡蝶の夢」 おわりに
最初の一編から、恐ろしいほどの描写力が読者を襲う。これがカルタレスクなのだ。ゆっくりと締め上げて行くように緊張感の高まってゆく物語は、しかし、おおかたの予想とは違ったところに着地する。そう、それがカルタレスクだ。この本と出会った私たちは幸運なのである。──高野史緒 ノーベル文学賞の呼び声高い現代ルーマニア文学の旗手が放つ、ポストモダン文学の極致! 『ノスタルジア』は私の本としては国の内外で一番読まれ、よく引用されている本です。この新しい版で、多くの若い人が初めて私の世界に入ってくれることは、大きな喜びです。その世界は私の頭骨と同じ直径の世界だと言ったことがあります。──ミルチャ・カルタレスク ルーレット士 メンデビル 双子座 REM 建築士 解説(高野史緒)
単一政党体制下の1950年代ルーマニア。作家・批評家養成機関「文学学校」に入学した語り手「ぼく」は、ひとりの女子学生と出会う。「正義の女」=ジュスタとあだ名された彼女を待ち受ける苦難とはーールーマニアの反体制派の代表と目される作家パウル・ゴマが、学生時代を回想して綴る自伝的小説。
「いくつかの想像上の都市の短い叙述で本を一冊作るというアイデア。その中に5000年の都市史の偉大と悲劇を圧縮する」--ルーマニアの鬼才が描き出す、「憧憬市(アラパバード)」「学芸市(ムセーウム)」「憂愁市(シヌルビア)」ほか36の架空都市の創造と崩壊の歴史。カルヴィーノ『見えない都市』に比肩する超現実的幻想小説集。アーシュラ・K・ル=グィンによる英語版序文を併載。
ルーマニア・ポストモダン文学の旗手カルタレスクが、数々の短篇・掌篇・断章で展開する〈女性〉賛歌。 黒い少女 Dへ、二十年後 イヤリング 親密感について ブラショフのナボコフ 落日 耳を伏せて 折り紙モンスター ぼくは何者? ペトルッツァ Jewish Princess トリーノの出会い 子供の脳髄で愛する アイリッシュ・クリーム 霊感の源 二種類の幸福 ザラザ わが青春の魅惑の書 偉大なるシンク教授 黄金爆弾 ぼくらが女性を愛する理由 終わりに
タブーを超えて惹かれ合う若き男女の悦楽の神話。瑞々しい大気、木に宿る生命、黄褐色の肌、足と足の交歓。インドの大地に身をゆだねた若き技師が、下宿先の少女と恋に落ちる。作者自身の体験をもとに綴られる官能の物語(『マイトレイ』)。ある日突然、妻の心変わりを察した劇作家志望の男。繕うすべもなく崩れていく夫婦の関係を夫の目から緻密に描き、人生の矛盾と人間の深い孤独を問いかけるイタリア文学の傑作(『軽蔑』)。愛の豊饒と愛の不毛。透徹した知性がつむぎだす赤裸々な男女の関係。
これは若くして死んで現世を離れ切れぬ女の幽霊の恋物語だ。Z村の貴族屋敷の住人たち、モスク未亡人とその娘二人は、令嬢クリスティナの美しい絵姿を生前の寝室に飾り、さながら聖画像のように渇仰していた。令嬢は未亡人の姉で、ルーマニア全土を震撼させた1907年の大農民一揆に巻き込まれたのだ。まだはたち前だった。死骸は見つからなかった。物語の舞台はそれから30年近く経っていて、貴族屋敷を訪れた青年画家と考古学者は、令嬢クリスティナについて村では身の毛もよだつような噂がささやかれていることを知る…。
チャウシェスク政権下のルーマニアを舞台に、「絶対的自由」の獲得に向けて世界の記憶回復(アナムネシス)を希求する老文豪、その探究の旅に秘められた謎とは?今世紀最大の宗教学者エリアーデの最後の長編幻想小説。