著者 : 佐々木譲
1941年初秋、ワシントンD.C.日本大使館。難航する和平交渉の最前線で芽生えた二つの恋。機密文書を打ち出すタイプライターが恋に搦め捕られたとき、男女は否応なく外交交渉のホットゾーンに投げ込まれた。そして彼らは切望した。和平の成立と恋の永遠を。運命のパールハーバーが日本外交の欺瞞を世界に曝してから約二週間後、戦時下のクリスマス・イヴに、ある秘密が永久に封印された…。
新宿で10年間任された酒場を畳む夜、郷田克彦は血染めのシャツを着た少女を店内に匿った。怯えながらメイリンと名のる少女は、監禁場所から脱けだす際、地回りの組長戸井田を撃ち、組織に追われていた。さらに克彦は日本に流れつくまでの難民生活、日本での過酷な労働を凌いできたメイリンの境遇に衝撃を受ける。欲望を孕んだ週末の新宿に蠢く暴力団の凶手。警察の執拗な捜査。この娘を救わなければならない。メイリンの姿が、この街に逃れてきた自分の姿と交叉した時、克彦は刻々と迫る二重包囲網の突破をはかった。
シカゴ郊外の町パクストン。日本企業クラタが買収したオルネイ社工場は、従業員や市民との間に様々な軋轢を生みだしていた。神話ともて囃された“日本的経営”も差別とした映らない。脅迫状。不審火。姿なき抗議がオルネイ社を襲う。そして、子供達が心待ちにしていたハロウィンの日。工場に爆弾が仕掛けられたという騒ぎの後、日本人の少年が消えた!誘拐か?事故か?それとも!?オルネイ社を調査にきた経営コンサルタント・田畑は、この町の深き亀裂を目のあたりにしていくー。日本経済の崩壊を暗示した戦慄のハードサスペンス。
昭和十七年二月、日本軍が英領シンガポールを占領し、昭南島と改名した日、彼は二つに引き裂かれた。帝国の臣民か、中華の民か。誇るべき祖国を持たぬ青年は銃を手にする。おのれが何者かを示す、ただそれだけのために-。
アメリカを西海岸から中西部へとドライブしながら、ダイナーの紙ナプキンやタブロイド新聞の端っこに書き留める。そんな風にしてこの本は書かれた。感謝祭に行き場のない男達が集うバーの盛衰を描く表題作はじめ、移動への憧憬を結晶させた13編のロード・ノヴェル。
北欧の都で駐在武官が入手した極秘情報-ベルリン陥落後も滅びへの道をひた走る日本が、世界地図から抹消される。ストックホルムから、情報を携えて地球を半周する苦難の冒険行。『ベルリン飛行指令』『エトロフ発緊急電』に続く、第二次世界大戦三部作、ついに完結。
ライターの大坪卓也は、北海道北士別町の通史執筆の依頼を受けた。酷寒だがいたって平和な町で、四十年前に起きた猟銃乱射事件だけが、「オンネベツの血の祝言」と呼ばれ、人々に語り継がれていた。気温が零下二十度をまわったある夜、一人の老人が凍死した。気温が下がるにつれ、死者は続いた。二週間で七人ー不審に感じた卓也は、ある日犬を追いかける龍巻状の吹雪を目撃する。超自然パニックノベル。
バリ島をオートバイで駆ける拓也、21歳。ちょっと不器用で、ひとりで生きることを習い性にしている青年。そして、気が強く、どこか陰をひきずっているイラストレーターの美樹、28歳。熱帯の異国情緒を背景にふたりの恋が静かに熱く燃えあがる…。
倶知安町郊外の古い廃工場の中、背中に強い衝撃を受けて関口啓子は倒れた。気がついたとき一人の男が…。その男は通称“丸秀”と呼ばれ、大工をしながらひっそりと生きている男だった。“丸秀”とはいったい何者なのか?関口の問いに何も語らない“丸秀”。しかし、彼は何かを恐めている。その恐れているものとは何なのか。北海道を舞台に描く逃走と追跡の物語。
嵐の日、舞台は那覇。組織に追われて逃げてきた原口泰三。今は小さなホテルの経営者として、時に流されている東恩納順子。かつて愛し合った男と女の15年ぶりの邂逅。そして空白の歳月をつなぐハーフダラー銀貨のペンダント…。宿命の恋をサスペンス・タッチで描く。
ニューヨークに住む日本人カメラマンと雑誌レポーターとの愛の深層心理を描く表題作をはじめ、スキーのオリンピック選手を目指した男が、骨折で断念。もう一度、そのコースを滑り降りることで、過去に訣別、新たな思いを抱くという「北の峰ダウンヒル」など、6篇を収録した中短篇集。
故なき醜聞で東京の大学を追われた新藤恭介は、妻娘とともに札幌郊外の私大に新たな職を求めた。だが80年前に米国人教頭ベーカーが建てた館に住む一家を、恐怖が襲った。怪しい人影が窓に映り、高窓が落ち、妻は地下室に閉じこめられた。一方、ベーカーの研究業績に光を当てようと資料の収集を始めた恭介に、大学から圧力がかかった。ベーカーの秘められた過去とは?ホラー・サスペンス長篇。
ドイツが入手した日本の最新鋭戦闘機のデータは、まさに驚愕に価した。ほどなく二人の札つきパイロットに極秘指令が下る。ゼロ戦を駆ってベルリンへ飛べ-日米関係が風雲急を告げる昭和十五年、英国情報網をかいくぐって銀翼が乱気流を切り進む…。
朝まで営業しているスナック“ケント”は、クルマ好きの若者たちの溜り場だった。そこをピットがわりに、1周13.9キロの首都高速を何分何秒で走るか。バイク、クルマを材にして、若者たちの血気と情熱を描く青春小説集。
大手弱電メーカーに勤める森本は、現在失業中の身だった。仲間とベンチャー・ビジネスを始め、挫折したためである。ある日、求人先の会社で彼を待っていたのは敬子だった。かつて彼女は森本の下で働いており、二人は愛しあう仲になったのだが…。男と女の皮肉な再会を背景に、自分の意志で自らの人生を選ぼうとする女性たちを描く、気鋭のオリジナル作品集。