著者 : 佐江衆一
八十八歳の老人が挑む人生終幕の旅ーー「昭和と戦争の三部作」最後の長編小説。亡き父の遺言を果たすため南太平洋の島に遺骨収集の旅に出た昭平。辿りついた地は村の人々が原始的な生活をして平和に暮らす桃源郷だった。彼は村で暮らす決心をする。だが迫り来る大国企業の天然ガス採掘の足音に脅かされる原住民たち。昭平は共に村を守り闘う決意を固める。渾身の力で未来を切り拓いていく老人の成長物語。
動乱の幕末維新。若き薩摩藩士・五代才助ーのちの五代友厚は、藩の命を受けて長崎海軍伝習所に学び、世界を知った。勝海舟、坂本龍馬、高杉晋作、貿易商のグラバーらと知己を得、薩英戦争後に若き留学生を連れて渡欧。自国に西洋社会の豊かさをもたらすべく、維新後は武士を捨て、士魂を持つ実業家として活躍を始める。大阪を“東洋のマンチェスター”にする夢を描き、大阪商法会議所などを設立し、日本経済の基盤を築いた風雲児の豪快な人生を描いた傑作歴史小説『士魂商才 五代友厚』を改題し、装いも新たに刊行!
池波正太郎、藤原緋沙子、岡本綺堂、岩井三四二、佐江衆一……江戸の「秋」をテーマに、人気作家の時代小説短篇を集めました。縄田一男さんを編者とした大好評時代小説アンソロジー第3弾!
瀬戸内の基地で「回天」特攻隊員として出撃を待つ兄善一郎は、たぎる想いと葛藤の日々を、日記と弟への手紙に綴った。学童疎開先から返事を書き続ける弟昭二。だが東京大空襲の戦火で父と母を亡くし妹をも失ってしまうー。戦争に引き裂かれ、生と死の極限に生きた兄弟の魂の交流が照らし出す戦争の悲劇。書下ろし長編小説。
還歴を過ぎ念願の剣の修行を始めた、大店の元主・上州屋幸兵衛。熱心な道場通いで七年目に切紙持ちとなったが、大切な奉納試合を前に負けが込んできた。稽古不足か慢心か。日々の心を如実に映す剣の不思議を描く表題作はじめ、倅の敵を求め老親と孫連れで遍歴する男の執念の物語「峠の剣」ほか、自身も剣道の高段者である著者が切先に漲る緊張を臨場感たっぷりに描く本格剣豪小説集。
夜中眼覚め脳裏に浮かぶのは、新婚時代のポニーテールの妻と若い自分、毎日オムツを取り替え自宅で見取った97歳の父。そして自分の葬式の死顔まで見えて…。老人の無明長夜(「長きこの夜」)。「赤い珠が出たらもう終わりらしい」-「不能」をめぐる男たちの侃々諤々。滑稽な会話で描く老年の性(「赤い珠」)。仕事をリタイアした4人の老年の男たちが始めた料理教室。その若い女講師を囲む奇妙な華やぎとほろ苦さ(「おにんどん」)。不気味な老男女は、学童疎開で私に煎餅を「献納」したコモリ姉弟なのか。(「死者たち」より「ズルズル・バッタン・チェッ」)。隅田川の橋の上、昭和初期の若き日の父・質屋の小僧信どんは語った。戦火のなか生き延びた父の描いた夢の真相(「橋の声」)。『黄落』から十二年、さびしくおかしい老年の一瞬の輝きを円熟の筆で描く七篇。最新短篇集。
時は鎌倉時代。武門の身を捨て十三歳で出家した一遍は、一度は武士に戻りながら再出家。かつての妻・超一房や娘の超二房をはじめ多くの僧尼を引き連れ遊行に出る。断ち切れぬ男女の愛欲に苦しみ、亡き母の面影を慕い、求道とは何かに迷い、己と戦いながらの十六年の漂泊だった。踊念仏をひろめ、時宗の開祖となった遍歴の捨聖一遍が没するまでの、波瀾の生涯をいきいきと描く長編小説。
時は鎌倉時代、武門の身を捨て、家族を離れ、十三歳にして出家した一遍。一度は武士に戻りながら再出家し、かつて妻であった超一房や娘の超二房をはじめ多くの僧尼を引き連れて、十六年間も遊行して歩く。断ち切れぬ男女の愛欲に苦しみ、亡き母の面影を慕い、求道とは何かに迷い、己と戦いながらの漂泊遊行で、踊念仏をひろめ時宗の開祖となった男。その捨てる心さえも捨てた境地に踏み入り、遊行先で没するまでの、波瀾の生涯を描く長編小説。
窓際で定年を迎えた男に、再び夢を見るチャンスはあるか。東京大空襲で孤児となった津村昭二の人生は戦いの連続だった。幸運にも恵まれ、コピーライターとして高度成長期には「豊かさ」の頂点も極めた。しかしそれに水を差すような売れっ子コピーライターの自殺。心に迷いが生じた途端、昭二は運に見放される。本当の生き甲斐とは何か。昭和ヒトケタの男が直面する第二の人生。
還暦間近の夫婦に、92歳の父と87歳の母を介護する日がやってきた。母の介護は息子夫婦の苛立ちを募らせ、夫は妻に離婚を申し出るが、それは夫婦間の溝を深めるだけだった。やがて母は痴呆を発症し、父に対して殺意に近い攻撃性を見せつつも、絶食により自ら命を絶つ。そして、夫婦には父の介護が残された…。老親介護の実態を抉り出した、壮絶ながらも静謐な佐江文学の結実点。
剣をもって修羅を生きよ!アヘン戦争前後の香港、ロンドン、幕末の日本を舞台に、大国の陰謀に独り立ち向う海賊“東海の青龍”。歴史の激流が渦巻く海で、命を賭して剽悍に生きた男を描く、壮大なロマン。
当世の流行に逆らい、地味な鳶凧作りにこだわり続ける貧乏凧師、定吉。しかし、女房のおみねはまるで糸の切れた凧のように商売敵の男のもとへ…。定吉は、角凧作りを得意とする花形凧師銀次に、おみねを賭けた喧嘩凧を挑む。喧嘩凧では絶対不利の鳶凧を手にー。凧師をはじめ、化粧師、人形師など、江戸の生活を彩ったさまざまな職人たちの人間模様を丹念に織り上げた傑作短編集。
弘化二年、江ノ島弁財天への御代参に向かう大奥女中の行列の駕籠が四人の虚無僧に襲われ、その中の一人が拉致された。二度と人は斬らぬと誓って、刀を捨てて久しい俳諧師・風来老人だが、弁天詣で女性を救うのも、風雅というもの、五尺の樫の杖を旋風のように翻転させ、賊を追い払った。助けられた娘は志乃、老中・水野忠邦の密命を受け江戸城大奥への阿片持ち込みの噂を確かめるべく、探索をする者だった…。
戦災孤児だった昭二は、苦学生から花形コピーライターとなり、管理職から窓際に退いて定年を迎えた。昭二の胸に去来したのは、高度成長期に衝撃的な遺書を残して自殺したコマーシャル界の鬼才といわれた男のことだった。激動する時代を夢中で生き抜いた男にとって、仕事とは家族とは真の幸福とは何だったのか。第二の人生にも幸福の選択はあるのだろうか。
剛剣が唸り小太刀が舞う、武士の世界。我が子の命を賭け真剣で勝負を挑んだ兵法者と、その男を愛してしまった道場主の娘を描いた表題作をはじめとする七編の時代小説短編集。自らも剣の達人である筆者が洞察力鋭く、緊迫した立ち合いの瞬間を描く。ドゥ・マゴ文学賞に輝いた『黄落』に続く佐江作品の傑作。