著者 : 佐江衆一
戦後80年の初夏、白衣一杖にすげ笠を被った88歳の沼田昭平は、豪華客船“太平象牙号”で南太平洋に向けて出発した。目的はニューギニア島で途中下船して亡き父の遺言を果たすこと。セピック河を遡り奥地のタントゴラン村にたどり着いた昭平は、そこでかつて瀕死の日本兵である父を助けてくれた部族の末裔に出会う。いまだに原始的な狩猟農耕と物々交換の生活をして平和に暮らす彼らに心動かされた昭平は、人生の最後の時間を村で生きる決心をする。しかし大国企業の天然ガス採掘の足音に脅かされる原住民たち。昭平は彼らとともに村を守り闘う決意を固める…。
動乱の幕末維新。若き薩摩藩士・五代才助ーのちの五代友厚は、藩の命を受けて長崎海軍伝習所に学び、世界を知った。勝海舟、坂本龍馬、高杉晋作、貿易商のグラバーらと知己を得、薩英戦争後に若き留学生を連れて渡欧。自国に西洋社会の豊かさをもたらすべく、維新後は武士を捨て、士魂を持つ実業家として活躍を始める。大阪を“東洋のマンチェスター”にする夢を描き、大阪商法会議所などを設立し、日本経済の基盤を築いた風雲児の豪快な人生を描いた傑作歴史小説『士魂商才 五代友厚』を改題し、装いも新たに刊行!
木綿問屋のひとり娘おまゆは、背たけは6尺、体重23貫の大女。そんなおまゆが契りを交わしたのは掏摸上がりの年下の男、又吉だった。皆に反対されながらも幸せな所帯を持った2人だが、又吉は再び掏摸に手を染めるようになり…(池波正太郎「市松小僧始末」)。ほか、古今の人気作家が勢揃い!江戸の「秋」をテーマにした大人気時代小説アンソロジー。文庫オリジナル!
時は鎌倉時代。武門の身を捨て十三歳で出家した一遍は、一度は武士に戻りながら再出家。かつての妻・超一房や娘の超二房をはじめ多くの僧尼を引き連れ遊行に出る。断ち切れぬ男女の愛欲に苦しみ、亡き母の面影を慕い、求道とは何かに迷い、己と戦いながらの十六年の漂泊だった。踊念仏をひろめ、時宗の開祖となった遍歴の捨聖一遍が没するまでの、波瀾の生涯をいきいきと描く長編小説。
還暦間近の夫婦に、92歳の父と87歳の母を介護する日がやってきた。母の介護は息子夫婦の苛立ちを募らせ、夫は妻に離婚を申し出るが、それは夫婦間の溝を深めるだけだった。やがて母は痴呆を発症し、父に対して殺意に近い攻撃性を見せつつも、絶食により自ら命を絶つ。そして、夫婦には父の介護が残された…。老親介護の実態を抉り出した、壮絶ながらも静謐な佐江文学の結実点。
剣をもって修羅を生きよ!アヘン戦争前後の香港、ロンドン、幕末の日本を舞台に、大国の陰謀に独り立ち向う海賊“東海の青龍”。歴史の激流が渦巻く海で、命を賭して剽悍に生きた男を描く、壮大なロマン。
当世の流行に逆らい、地味な鳶凧作りにこだわり続ける貧乏凧師、定吉。しかし、女房のおみねはまるで糸の切れた凧のように商売敵の男のもとへ…。定吉は、角凧作りを得意とする花形凧師銀次に、おみねを賭けた喧嘩凧を挑む。喧嘩凧では絶対不利の鳶凧を手にー。凧師をはじめ、化粧師、人形師など、江戸の生活を彩ったさまざまな職人たちの人間模様を丹念に織り上げた傑作短編集。
弘化二年、江ノ島弁財天への御代参に向かう大奥女中の行列の駕籠が四人の虚無僧に襲われ、その中の一人が拉致された。二度と人は斬らぬと誓って、刀を捨てて久しい俳諧師・風来老人だが、弁天詣で女性を救うのも、風雅というもの、五尺の樫の杖を旋風のように翻転させ、賊を追い払った。助けられた娘は志乃、老中・水野忠邦の密命を受け江戸城大奥への阿片持ち込みの噂を確かめるべく、探索をする者だった…。
戦災孤児だった昭二は、苦学生から花形コピーライターとなり、管理職から窓際に退いて定年を迎えた。昭二の胸に去来したのは、高度成長期に衝撃的な遺書を残して自殺したコマーシャル界の鬼才といわれた男のことだった。激動する時代を夢中で生き抜いた男にとって、仕事とは家族とは真の幸福とは何だったのか。第二の人生にも幸福の選択はあるのだろうか。
剛剣が唸り小太刀が舞う、武士の世界。我が子の命を賭け真剣で勝負を挑んだ兵法者と、その男を愛してしまった道場主の娘を描いた表題作をはじめとする七編の時代小説短編集。自らも剣の達人である筆者が洞察力鋭く、緊迫した立ち合いの瞬間を描く。ドゥ・マゴ文学賞に輝いた『黄落』に続く佐江作品の傑作。
文化元年、幕府は対露政策の一環として蝦夷地に官寺建立を決定。命を受けた文翁、智弁らは、アイヌ教化のためにアッケシに赴任した。文翁の布教は困難を窮め、若い智弁はアイヌを虐待する和人に慣りを募らせていく、やがて、文翁は幕命を果せぬまま横死、智弁は苛烈な運命に呑まれてゆく。二つの文化の間で苦悩する二人の僧を通して歴史の暗闇に光を当てる新田次郎賞受賞の巨編。
老父母と同居することになった森本代志男には妻の他に大学受験を控えた長男と高校生の長女がいる。穏やかな核家族に突如、闖入した老父母。寝たきりの老母タツは痴呆症が進み、妻に負担はのしかかる。子供たちも祖父母には冷たい目しか向けない。無力な自分に苦悩する代志男ー。そしてタツが扼殺される。家族を崩壊にまで至らせる老人介護の深刻な状況を克明に捉えた衝撃の問題作。
宮本武蔵に打ち勝つ事。それのみを念頭に鍛練を重ねた兵法者がいた。夢想権之助は、香取神道流の印可を受け、一刀流、馬庭念流など様々な流派の奥旨を得て武蔵と立合ったが、あえなく敗れてしまう。剣を捨て、諸国を遍歴するうちに、権之助は、杖という新しい得物に出合う。幾年かの苛酷な鍛練の末、数々の秘技を会得して、独自の杖術に開眼する。そして、権之助は再び武蔵に挑んだ。
源義経最期の時、炎の持仏堂に魔風のごとき七匹の天狗が舞い降りた。それから四百余年、天下太平の徳川治世に、いま、大乱の予感。兇・禍・怨・恨・謀・邪・悪・乱-、八片の魔鏡が集う超伝奇ロマン。平成版八犬伝。