著者 : 佐藤雫
「我が蔵人頭は、優しいが頼りない……」 幼い頃に父を失った藤原行成は、平安貴族としての官位栄達を諦めていた。しかし、行成の姿を見ていた一条天皇は、彼を側近である蔵人頭に任ずる。 その行成は、一条天皇の感情の自制と苦悩に満ちた生涯を目の当たりにすることとなった。 筆の名手「三蹟」の一人として知られる行成とその妻、一条天皇と中宮定子、そして清少納言。互いを信じて想い合う姿には、愛が溢れていた。
最初に父親から教えられたのは自害の作法…細川忠興は愛を知らなかった。玉(ガラシャ)は、妻として忠興に寄り添いたいと思う。しかし父・明智光秀の謀反により、夫婦の運命は暗転。謀反人の娘となって幽閉された玉は、やがてキリスト教の愛に惹かれていく。一方、忠興は玉の心を失う孤独と恐怖から、刃を振り上げー。本当に大切にすべきものは何だったのか。物語は歴史上もっとも美しいラストシーンへ。
大坂の蘭学塾「適塾」を営む名高い医学者、緒方洪庵の妻となった八重。ぎこちない暮らしの中、次第に二人は心を通わせていく。そんな中、恐るべき疫病の疱瘡が流行の兆しを見せはじめた。洪庵と八重は、人々が疱瘡に苦しむことのない世をつくるため、適塾で学ぶ志士たちー大村益次郎、橋本左内、福沢諭吉らと共に新医術「牛痘種痘」を広めようとする。だが、それは長く困難な闘いの始まりだった。近代医学の礎を築いた夫婦と教え子たちの、葛藤と成長を描く感動の歴史小説。
海沿いの地にある鎌倉幕府。美しい景色とうらはらに、そこには陰謀、嫉妬、憎しみが渦巻いていた。そんな中、若き三代将軍・源実朝のもとに、摂関家の姫・信子が嫁いでくる。突然の縁談と異国の地に不安を覚える信子だったが、実朝の優しさと生まれて初めての海の匂いに包まれ、次第に心をゆるしていく。一方の実朝も、信子が教えてくれた和歌の魅力に触れ、武の力ではなく言の葉の力で世を治めたいと願うようになる。しかし、殺戮さえいとわない醜い権力争いが、ふたりを否応なく悲しみの渦に巻き込んでいくー。第32回小説すばる新人賞受賞作。