著者 : 八剣浩太郎
貧乏旗本の末弟・弥平太は、長いあいだ部屋住の居候ぐらしをしていたが、二十九歳になって、やっとムコ入りの口にありついた。相手は十七歳の未通娘とあって、弥平太は天にも昇る心持。だが、彼には心配事があった。部屋住の身では吉原通いなど叶うはずもなく、未だ女の肌を知らなかった。そんな弥平太を見かねた義姉が男女の営みを指南することに相成ったが、夢中になってしまったのは義姉の方だった…武家妻のヨロメキを描いた「枕中・色の道指南」等、文庫初収録作品九話。
元禄大飢饉により津軽藩は窮乏の危機に陥った。召放ちの立場に追い込まれようとしていた棟方長九郎は、勘定奉行・森岡主膳から、賄賂を出せば召放ちを免じると申し渡される。しかも賄賂とは長九郎の妻・松枝であった。妻と家のどちらをとるのか、苦悶する長九郎が選んだ道は…!?(「浮かぶ瀬もなし」)。表題作他、武家社会にあって、建前と本音の狭間で呻吟する人々の姿を描いた八篇を収録。文庫オリジナル。
大阪・天満橋から三十石船に乗り込んだ夢野幻十郎。彼は舳先に座っている二人連れの女に近づいた。17、8の娘と30前後の年増である。千人供養の第一番はこのどちらかに決めた…。色公卿・高倉色道軒の千人供養満願成就にケチをつけたのがキッカケで、自らも3年以内に千人の女と媾合う願をかけるハメになった幻十郎の色ごよみ。
元禄七年、かつて「四代目高尾」として名声をはせていたお栄は、ある日、旦那からのお手当を届けてくれた六十八歳の下僕・平右衛門の一物が立派なことを知り、無理やり交合。以後愛欲に溺れる日々を続け、遂に手に手をとって出奔した。ところが消耗しはてた平右衛門が夜の用をなさなくなったから大変…。「名妓『四代目高尾』」ほか、それぞれの時代で悪女と呼ばれた女たちの生態を描いた傑作時代小説集。
江戸享保年間、材木問屋の「白子屋」のおつねはその浪費癖がたたって店の身代を傾けた。一人娘のお熊は母親似のドラ娘だが容姿だけは抜群で、そこに惚れ込んだ四十男の又四郎が五百両を持参金に婿養子となった。ところが母娘は又四郎を嫌い、あの手この手の追い出し工作。遂には毒殺まで企てるが…。大岡裁きとして名高い「白子屋お熊」ほか江戸時代を中心に、史上の有名人たちの真の姿を描いた時代小説集。
江戸屈指の骨董屋・大黒堂に入婿した粂太郎は、今夜も女房のお克に責められていた。鑑定ができないなら、せめて女房孝行ぐらい満足にしてみろというのである。お克は面喰いで、粂太郎の二枚目ぶりに惚れ、粂太郎は大黒屋の身代に目がくらんでいた。ゲップのでるお克の体だが、仕方なく粂太郎はのしかかっていった…。入婿したナマクラ男の悲哀と悲劇。
隠密絵師として九州から江戸へ上る朝霞桔梗之介は、山陰・津和野の寺で一夜の宿を借りた。ところがそこの住職が、かつて斬殺した女の呪いに取り付かれ、奇妙な病に苦しめられていることを知る。助けを求められた桔梗之介は一計を授けるが…。出雲路、袖振りあった人々の悩みを解決し、悪人を懲らしめながら、色事絵師の旅は続く…。長篇痛快時代小説。
寛政年間、仕込杖と絵筆を手に肥後・人吉領へ分け入った朝霞桔梗之介は、追い剥ぎに襲われていた人妻・小春と従者・セツを助ける。平家落人の末裔が住む秘境「五家ノ庄」へ戻るという女二人に同道して、桔梗之介は山深きかの地を訪れた。だが、日を経ずして小春の家に伝わる平家三宝刀の一振りが何者かに盗まれ、村は大混乱に陥る。痛快時代小説。
老中・松平定信の非公式な隠密巡察役として、肥前長崎の地を踏んだ絵師・朝霞桔梗之介。不義密通の仕置きで拷問と女郎務めの日々を送っていた女・ムメを郭から連れ出した桔梗之介は、高名な女流陶物師・咲弥の屋敷に転がり込んだー。雲仙から肥後熊本へ、今生の地獄を見た女を伴い、桔梗之介の憂世の旅は、またしても剣難・女難の連続となる。
江戸・寛政年間、幕府小姓組番頭の職を辞し、絵師となった朝霞桔梗之介は、艶の盛りの大店の内儀・万喜を道づれに、深山幽谷の木曽路を旅していた。かの地で人の首より樹木一本を大事とする世の不条理に激しい怒りを覚えた桔梗之介は、藩権勢を頼む山役人に凌辱されたいた娘を居合一閃で助ける。だが、礼を受けて訪ねた里で抱いた女は亡霊であった。
幕府小姓組番頭を失脚し、絵師となった朝霞桔梗之介は、絵修業のため奥の細道を旅していた。だが道程は、景観を画布におさめるどころではなく、群れるように現れる悪党を斬り、色香漂う女とたわむれる有様であった。一寸先も見えぬ旅空の下、桔梗之介が触れた人間の業と存在無用の武士。抜き討つ刀が悪を両断し、また新たな辻へと立ち入る…。
第八代将軍吉宗の曾孫・赤利豊前守高昌(灯雨近)は、江戸にはびこる悪を裁くため市中を徘徊していた。いくたびか女体に溺れ、策略を期す妖女に惑わされる雨近だが、同時に武士としての誇りを持つ男たちへの助力も発揮していた。また不審な動静を見せる長崎奉行へ密偵を疾らせるなど、公儀でも策動する雨近。己れを取り巻く、業に満ちた者たちを見た時、次第に腐り始めている国の政治を敏感に感じ取った雨近だが…。
幕府小姓番頭という職を失脚し、絵師となった朝霞桔梗之介は、再び拓かれようとしていた武士の道を拒絶して、芭蕉が辿った奥の細道へ絵修業の旅に出る。景観を画布におさめる道すがら、偶然出会う妖しい女との困果で一刻たわむれ、経路を外れることしばしの道中であった。しかも、次々と行く手に現われる悪党に時の政治の腐敗を垣間見る桔梗之介は、自らの掟に従い、眼前に群がる悪を一刀両断に斬り捨てていくー。
菅原道真の二十五代目で元侍従頭、現在は日本橋にある銭湯の主人・唐橋在家、通称杏之介は、光格天皇の政事に関わる重大な密勅を受けて、東海道を京都へと向かっていた。公家の慣習を嫌い改革を進めた杏之介が半ば追放という形で京を離れて以来の道中であった。だが、杏之介の存在に末だに嫌悪を抱く異母弟の陰謀により、道行き刺客に狙われる。執拗に迫る刃に立ち向かい、殪した杏之介が旅の果てに見るものは…。