著者 : 千種堅
若い女性は誰だって白馬の王子さまを夢に見るもの。でもわたし、アンネッタは結婚しているから、もうそんな夢は見ない。結婚した相手の男はニコラ。ホテルの雑用係だけど、家に帰れば暴君と化し、夫婦の営みはまるで暴力沙汰。“愛”なんて少しも感じられなくて、あるのは、ただ動物的な肉体関係のみ。それでも、結婚したというそれだけのことで、いつのまにやら奥様にまつりあげられてしまったわたし。いったい、“結婚”ってなに?“奥様”ってなんなの?わたしだって、おもてで働きたいのに!いまだに古い因習が生活を支配するシチリア島の港町で、真の自由を求めてはばたこうとする少女、アンネッタの心情をみずみずしく描き、ヨーロッパ各地で記録的ベストセラーとなった『ズボンがはきたかったのに』の続篇。
シチリアの因習的な田舎町に住むアンネッタは十六歳の少女。いつも両親のきびしい監視があって自由に行動することもできない環境のなかで、神様にあこがれ修道尼になりたいぐらい。はては神父が僧衣の下にはいているズボンにまであこがれる。だが、ズボンは男か淫売がはくものと母親に教えられ、男にはなれないアンネッタは淫売になりたいと思う。淫売といっても、この地方の用語では「奔放な女」という程度の意味。そして、その典型みたいな同級生アンジェリーナと親しくなり、裕福な彼女の家に出入りするようなになって、ニコラというボーイフレンドができたものだから、家族は大騒ぎ。ついには無理矢理、叔父のところへ追放を決められる…。シチリア島南西部の港町リカータを舞台に、昔ながらの因習に翻弄されながらも自由にはばたこうとする思春期の女の子の普通の生活感覚をみずみずしくユーモラスに描く。ヨーロッパで記脇的ベストセラーをつづける、十九歳の著者のデビュー作。
夜明け前のフィレンツェは,森閑と闇に沈んでいた。通報をうけて現場に急行する見習い将校のバッチ憲兵は、不安を抑え、面倒な事件ではありませんようにと祈った。だがその願いもむなしく、呼びだされた先のアパートメントの部屋には中年男の死体が転がっていた…。殺人事件だった。被害者の部屋にあった身分不相応とも思える高価な美術品はどこからきたのか。そして事件当夜に被害者が待っていた訪問客とは。はじめての大事件で戸惑うばかりのバッチ憲兵は、風邪で寝込んでいる上司のグアルナッチャ准尉に相談するが、なんら手がかりも得られぬまま、第二の事件が起きた。メグレ・シリーズの巨匠シムノンが絶賛した英国女流推理作家のデビュー作、遂に登場。CWA新人賞候補作。
ブルボン王朝の支配する19世紀の南イタリア、シチリアとおぼしき王国にある孤島の牢獄。国王暗殺の陰謀に加担したため死刑を宣告された4人の男たちが、翌朝のギロチン刑を前に恐怖にふるえ、最後の夜をすごしている…。コッラード・インガフウ男爵-熟年。〈現人神〉をリーダーとする地下組織に入って以来、国に対する破壊活動の過激分子となる。サリンベーニ-40代、自称詩人。アジェラシオ-30歳、兵士。ナルチーゾ-年齢不詳、学生。当局は一味の影のリーダー〈現人神〉をつきとめようとするが、彼らはどんな拷問にも屈せず、嘘をつらぬき通している。そして処刑前夜、城塞刑務所の総督がやってきて、〈現人神〉の素姓を明かせば恩赦も認めようともちかけた。4人はこの取引を拒絶したものの、死を前にした動揺は激しく、残された5時間を有意義にすごすため、“デカメロン”のように各人が順を追ってそれぞれの人生を語りはじめた…。計算しつくされた物語はこび、みごとな文学空間…極限状況下の人間の真実と嘘を鋭く追求し、今世紀のイタリア文学を代表する作品とまで絶賛された傑作。ストレーガ賞受賞。
1年以上もセックスを拒んだまま、妻は死んだ。妻の面影を追い続ける男は、たまらない孤独をふり払うために旅立った。そして、カプリ、夢に見た、妻そっくりの黒マントの女に出会った。妻との初めてのセックスを思い描きながら、男はその夜、女を待った…。現代最高の作家モラヴィアが描く究極の性の深淵。世界をスキャンダラスな話題に巻き込んだ期待の短篇集。
ミラノ君主である甥のジャン・ガレアッツォより君主の座を乗っ取り、権謀術数と比類なき闘争心で陰謀渦巻くルネサンス政界を生き抜いた男、ルドヴィコ・イル・モーロ。彼こそは、傭兵隊長と君主の理想的な要素“勇気”と“好運”をかねそなえた偉大なマキャベリストであった。一方で背徳的な悪の顔をもちながら、他方で芸術と学問を愛した複雑で魅力あふれるこの男こそ、ルネサンスの光と闇を如実に体現した最もルネサンス的な君主であった。本書は、従来紹介されることの少なかったこの人物の波乱にみちた生涯を物語る。