著者 : 古谷田奈月
迎え撃て。この大いなる混沌を、狂おしい矛盾を。 「推し」大礼賛時代に、誰かを「愛でる」行為の本質を鮮烈に暴く、令和最高密度のカオティック・ノベル! 総合出版社・立象社で社会派オピニオン小冊子を編集する橘泰介は、担当の著者・黒岩文子について、同期の週刊誌記者から不穏な報せを受ける。児童福祉の専門家でメディアへの露出も多い黒岩が、ある女児を「触った」らしいとの情報を追っているというのだ。時を同じくして橘宛てに届いたのは、黒岩本人からの長文メール。そこには、自身が疑惑を持たれるまでの経緯がつまびらかに記されていた。消息不明となった黒岩の捜索に奔走する橘を唯一癒すのが、四人一組で敵のモンスターを倒すスマホゲーム・『リンドグランド』。その仮想空間には、橘がオンライン上でしか接触したことのない、ある「かけがえのない存在」がいて……。 児童虐待、小児性愛、ルッキズム、ソシャゲ中毒、ネット炎上、希死念慮、社内派閥抗争、猫を愛するということ……現代を揺さぶる事象が驚異の緻密さで絡まり合い、あらゆる「不都合」の芯をひりりと撫でる、圧巻の「完全小説」! 【著者略歴】 古谷田奈月(こやた・なつき) 1981年千葉県我孫子市生まれ。2013年、「今年の贈り物」(のちに『星の民のクリスマス』と改題)で第25回日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。17年、『リリース』で第34回織田作之助賞受賞。18年、「無限の玄」で第31回三島由紀夫賞受賞、「風下の朱」で第159回芥川龍之介賞候補となり、同年刊行の『無限の玄/風下の朱』で第40回野間文芸新人賞候補となる。19年、『神前酔狂宴』で第41回野間文芸新人賞受賞。他の著書に『ジュンのための6つの小曲』『望むのは』がある。
金と愛と日本と神が、ひとつに交わるこの宴 狂乱の神前結婚パーティーが、いま始まる! 神社の披露宴会場で働く18歳のフリーター・浜野。披露宴の「茶番」を演じるうち、神社のまつる神が明治日本の〈軍神〉であることを知り……。 結婚、家族、そして日本という壮大な「茶番」を鮮やかに切り裂く、最注目の俊英による今年度最大の問題作! ■早くも話題、絶賛の声続々! 披露宴会場の仕事の細部を本物の現場感覚で見事に描きだし、結婚とは何かという普遍的な事柄とともに、神社や宗教を絡めてテーマを広げ、全部をうまく溶け込ませている。橋本治『草薙の剣』とも共通する、時代との独特の接し方。 ーー佐伯一麦(「群像」創作合評) 立ち位置なんて、決めたくない! 強い意志をもつ主人公浜野。相棒は、熱血青年の梶。正義を背負って参戦する、神道女子の倉地。 登場人物の葛藤が、なんともチャーミングな痛快作。古谷田奈月さんは、華燭の典の楽屋の壮絶な闘いをすべて書きつくされた。 ?-石田千(「群像」創作合評) 従来の結婚式小説とは違い、神道それ自体を描き出し相当奥行きのある作品に仕上がっている。震災やオリンピック会場の建設などの時事的な事柄をも主人公の経験に沿って語る、一種の平成史小説。 ?-陣野俊史(「群像」創作合評) 軽妙な語り口ですがすがしい読み心地。神社政治のメカニズムの扱いにも慣れた彼が、ライバル関係をうまくやり過ごし実現させるのは、全く新しいお一人様での結婚式。荒唐無稽のようでいて、意外と切なく、締まった結末。 ?-阿部公彦(「共同通信」) 軍神も神社も架空のものだが、いかにもなリアリティがあり、ワリの良い仕事だからと軽い気持ちで働き始めた主人公を通して、読者は「天皇制」の「日本」の「社会」と「家族」の不可思議に対峙させられる。力作である。 ?-佐々木敦(「東京新聞」) 右寄りの思想の空無な状態を戯画化し、それだけでなく、彼らの寄る辺なさに哀切を漂わせている。さらに現代の婚礼における差別主義をも暴く射程の広い物語。紛れもなく著者の代表作。 ?-長瀬海(「週刊読書人」)
男女同権が実現し、同性愛者が新たなマジョリティとなった世界。異性愛者の男子大学生、タキナミ・ボナは、オリオノ・エンダと共に精子バンクを占拠した。駆け付けたビイは、ボナの演説に衝撃を受ける。「マイノリティという存在を概念ごと捨て去ることに成功したこの素晴らしい社会が、ぼくの人権を侵したのだということです」。現代の人間の在り方を問う衝撃作。
音楽の神(オルフェウス)が少年に舞い降りた。「アホジュン」は私達の想像を超えた、特別な世界に住んでいる。感動の青春小説。僕にしか、聞こえない音があるんだ。学校中にアホジュンと見下される少年ジュン。密かに作曲家を志す同級生トク。学校ではない、特別な世界で二人を げたのは、至上の音色を持つトクのギター〈エイプリル〉だった。穏やかな日々の最中降りかかる暴力。反発したトクは完璧な曲を書き、ジュンに歌わせることで雪辱を果たそうとするが……。眩い色彩、瑞々しい旋律。音楽に愛された二人の日々に胸焦がす、祝祭的青春小説。
隣の家のお母さんは、エプロンを着けたゴリラだった。奇妙な世界の王道青春小説。十五歳。若い人間として生きられる、これが最後の一年だ。歳を取るのが怖い小春は、隣に越してきた同い年の歩くんと出会う。彼はバレエダンサーで、おまけにお母さんはゴリラなのだ! それっていったい、どういうことーー? 部活動、新しい友だち、恋にも似た心の揺れ。少し風変わりな世界で成長する少女の一年を描く長編。
女性首相ミタ・ジョズの活躍の下、同性婚が合法化され、男女同権が実現した“オーセル国”。精子バンクが国営化され、人々はもう性の役割を押し付けられることはなく、子供をもつ自由を手に入れていた。ある日、国家のシンボルとも言うべき“オーセル・スパームバンク”を一人の異性愛者で愛国主義者、タキナミ・ボナが占拠した。彼は、バンクへのスパーム提供を拒み続けている名門大学の男子学生である。「今こそはっきり告発します。ミタ・ジョズはぼくをレイプした。(中略)ぼくの盗まれたスパームのIDは…」彼の衝撃の演説は、突如現れたもう一人の男性テロリスト、オリオノ・エンダがボナを射殺することで幕を閉じたーその場に居合わせた17歳のユキサダ・ビイは、ボナの持つ“言葉の力”に魅了され、新進の無思想ニュースメディア『クエスティ』の記者になり、二人のテロリストの実像を追い求めるー男女の在り方を問う、新時代のディストピア小説。
学校では「アホジュン」と蔑まれ、友達はひとりもいない。でも、孤独じゃなかった。「音」があった。自転車があった。歌われることを待っている「歌」もあった。14歳。夏の少し前。同級生のトクが奏でるギターを聴いて、ジュンは、やっと気がつく。自分が楽器であることに。「僕、楽器なんだ!」小説の愉楽、ここにあり!!歓喜。興奮。ささやかだけれど奇跡的な物語。
最愛の娘が家出した。どこへ?クリスマスに父が贈った童話の中へ。父は小さな娘を探すため小説世界へともぐりこむ…。残酷でキュート、愛に満ちた冒険譚。第25回日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作。