著者 : 和久峻三
春の飛騨高山。置き引きの現行犯で逮捕された中年男がいた。男は犯行は認めたものの、氏名や本籍を頑として黙秘する。が、余罪ありと睨んだ赤かぶ検事は、「本籍、不詳。住居、不定。職業、不詳。氏名、不詳…被告人は、年齢四十七、八歳。容貌、別紙添付の写真のとおり…」と、異例の起訴に踏み切った。-表題作ほか、法廷推理の真髄をユニークに描いた傑作集。
酒に酔って妻に暴力をふるう夫を、同居の義父が殺害した。目にあまる娘婿の横暴を止めようとして、逆に襲いかかられた末の悲劇であった。過剰防衛か殺人かを争う法廷に立つ証人たちの口から、次々と意外な事実が明かされ、裁判官同士の判断にも微妙なズレが生じ始める…(「許された殺意」)。ほか。
ご存じ、赤かぶ検事が光文社文庫に初登場。しかもシリーズ初の長編書下ろしで、名推理。赤かぶ検事と行天燎子警部補は、出張の帰途、信州・更埴市の「あんずの里」に立ち寄った。二人はそこで、髪をバッサリ切られた若い女の変死体を見つける。一方、松本で、その女の髪の毛を用いた京人形が、男の他殺体とともに発見された。人形をめぐる奇怪な連続殺人。
京都の色町に育った気鋭の弁護士藤波清香は離婚歴あり、一児あり、恋人ありの元気印の女。その清香のもとに、凍結受精卵による体外受精で生まれた子に親の財産の相続権はあるのか、という難問がもちこまれた。飛行機事故で不慮の死をとげた両親が残した巨億の遺産。ときには芸妓姿で情報をとる清香の艶姿。
思いもよらない事件が発生した。走行中のトラックから冷凍胎児が落下し、直後、運転手が毒殺されたのである。黒い噂のある光陽医科大付属病院長・森岡剛造との関連が浮かんだが、彼もまた、毒殺死体となって上高地で発見された…。事件の鍵を握るのは森岡の愛人ただ一人。だが、彼女には殺人を犯し得ない完璧なアリバイがあった。やがて、第三、第四の殺人が…。法廷推理の第一人者が、上高地・京都・東京を舞台に、二重、三重のトリックで描く傑作長編本格推理。
自社の株が乗取り屋に狙われた時、あなたならどうするか?経営陣の確執、自衛に立つ従業員、インサイダー取引、M&A、TOB…。流動化する現代企業の複雑なメカニズムを現役弁護士でもある作家がヴィヴィッドに描く長篇経済小説。
杉苔が美しい尼寺・月心庵で死体が発見された、との知らせで現場へ急行した赤かぶ検事は、その異様な死体を見て思わず顔をそむけた。男女の判別もつかぬほど、巨大なナメクジが全身を覆いつくしていたのだ。発見者の二人の尼僧の話では、毎年八月十五夜になると群れをなしてナメクジが現れるという。立居振舞も風貌も男っぽい庵主と惚れ惚ぼれするほど艶っぽい美人の尼僧は、この怪事件に全く動ずるところがない。怪現象と二人の尼僧の関係を想像し、頭を悩ませていた赤かぶ検事の元へ、ヤクザに脅かされ女子高生が姿を消したという知らせと、尼寺の死体が、女子高生を脅迫し、売春をさせていたヤクザだったとの知らせが届いた。そして日をおかずして、またもや月心庵でナメクジに覆われた死体が発見された。死者は失跡していた女子高生で、しかも彼女は妊娠していた。さらに三人目の死体が月心庵の庭で発見され、事態は意外な展開を見せ始めた…。