著者 : 堺谷ますみ
ついにアイオナは意を決した。どうしても赤ちゃんができない妹夫婦のためには、ドナーを探して私が代理母になるしかないわ!そんな折に出会ったのは、同じ病院の凄腕医師ジョー。吸いこまれそうなほど明るいブルーの神秘的な瞳の持ち主だ。ジョーに魅せられた彼女は代理母になろうとしていることを彼に告げる。すると、彼はアイオナの決意を危ぶみながらも、最終的には協力を約束してくれたー妊娠すれば終わる関係として。悲惨な離婚を経験しているジョーが誰かを愛することなど二度とない。それでもアイオナの彼への想いは募る一方で…。
孤児のマリーは里親家庭をたらい回しにされながら、奨学金で大学を卒業し、今は自らが支援を受けた慈善団体で働いている。ある日、マリーに思わぬ転機が訪れた。カンヌにある本部に呼ばれ、慈善イベントのマネージャーに抜擢されたのだ。一緒に仕事をする裕福な支援者ザンダーが現れた瞬間、優雅で自信に満ちたハンサムな彼を見て、マリーは息をのんだ。さる公国の王子で、亡き姉の幼い娘を後見する彼は慈悲深くもあった。好きにならずにいられない…でも、身分の違いを忘れてはだめよ。そんなマリーの気も知らず、ザンダーは彼女に豪華なドレスを着させ、“同僚”として次々と上流階級のパーティに連れ歩くのだった…。
自分が住む田舎町に医師のベンが現れて、看護師のエミリーは驚いた。3年前の夏、わたしはベンに熱烈な恋をして、赤ちゃんを授かった。なのに、パリに住む彼に伝えに行くと、嘘をつくなと追い返され、ただの都合のいい遊び相手だったのだと思い知らされた。ところが、再会したベンはエミリーの子を見るなり、顔色を変えた。なんという運命のいたずらか、息子はベンにそっくりだったから。エミリーは、わが子ともども拒絶されたことを忘れてはいなかった。だが、ベンが過去に癌を患い、子どもは持てないと宣告されたと聞き、もう一度彼に愛されたいと願うようになる。たとえベンが、エミリーのいない人生を望んでいても。
エレナは意を決し、スペイン富豪カレブの会社を訪れた。カレブとは大学時代に出会い、激しく惹かれ合いながらも、予測不能で奔放な彼との恋が一時の情熱で終わると思うと、怖くなって自分のほうから逃げ出してしまったのだった。この心は、あれからもずっとカレブを求めてきた…。そして今、仕事の協力を願いにやってきたが、再会したカレブは取りつくしまもなく、彼女の望みを拒絶した。その直後、あきらめず会社の前に立つエレナに気づき、追い払おうと道路に踏み出した瞬間、彼はバイクにはねられてしまう。病院で目を覚ましたカレブは、エレナとのすべての記憶を失っていた!
生まれながらに次期国王の許嫁と決められたジョハラは、父によって適齢期までフランスの片田舎に幽閉されて育った。そしてついに、王位継承者アジムとの対面のときがやってきた。ところが彼は挨拶すらせず、結婚式は1週間後と宣言するばかり。こんなに冷たい人と、生涯をともにするなんて…。恐怖のあまり、ジョハラはフランスへと逃げ帰ってしまう。行くあてもなく、街をさまよったすえにたどり着いたカフェでウェイトレスの職を得たジョハラは、すぐにそこが売春宿だと知る。汚い男の手が伸び、万事休すーそのとき、深みのある声が響いた。「手を離せ。売約済だ」威厳あるアジムの姿が、そこにあった。
シャーロットは大病院の救急科の新入り看護師。母が急に家を売って恋人のもとに身を寄せたため、路頭に迷った彼女は、住みこみの子守りの求人広告にすがった。訳あって無一文の今、雨露をしのげるだけでも助かるのだ。運よく面接者の女性にひと目で気に入られるが、話を聞くうち、なんとそこが、同じ病院の敏腕医師ヘイミッシュの家だとわかる!女性は彼の妹で、職場復帰が決まったので子守りを募集したらしい。シャーロットはその日の朝に、病院でヘイミッシュと初めて会い、魅力的だが気難しい彼が、皆に畏怖される存在と知ったばかりだ。そんな彼の同意もないまま、ひとつ屋根の下に暮らすなんて…。
ジョーは姉妹同然に育った親友の死に思いを馳せ、摩天楼を見上げた。わが子のように思う親友の忘れ形見を養女にしようと、ニューヨークにオフィスを構える親友の兄キャメロンを訪ねたのだ。養子縁組をするには、キャメロンの同意が必要なのだが、敏腕弁護士である彼は、おいそれと署名をしない。それどころか、自分の予定にジョーをつき合わせたあげく、明日会社で署名するからと、今夜は彼女を自宅に泊めると言いだした。わたしが養母にふさわしいか見極めるため?それとも…?最高級住宅街にあるキャメロンの自宅へ向かうエレベーターの中、ジョーは急上昇する脈拍を無視しようと、ぎゅっとまぶたを閉じた。
ロザリーは、ポルトガル沖の島ヴォース・ド・マールへやってきた。島の領主ドゥアルテ・アルド公爵の娘の家庭教師として、小宮殿と呼ばれる屋敷に住み込みで働くためだ。初めて会った公爵は見上げるほど背が高く威圧的で、聞けば、6年前に悲劇的な事故で妻を亡くしたという。ロザリーは、彼の謎めいた黒い瞳に見つめられるのが苦手だった。なぜか落ち着かない気分になり、つい生意気なことを言ってしまうのだ。馴染みのない感情をもてあまし、ロザリーはひとりピアノを弾いた。夕闇の中、公爵がじっと耳を傾けていることに気づいたとき、彼が言った。「誰か、愛する男を思って弾いていたのだろう?」
ツアーガイドのフェイスは、異国で貧しくも自由な生活を送っていた。だがある日突然、会社が倒産して仕事も家も失い、母国イギリスに戻る金さえなくて空港で途方に暮れていたとき、偶然知り合った富豪貴族のドミニクに、臨時ガイドとして雇われる。救世主である彼の役に立とうと懸命に働くフェイスだったが、彼女は出自にまつわる重大な秘密を抱えていたー本当はドミニクと同じ上流階級に生まれながら、なじめず失踪したのだ。フェイスはそれを伝えられないまま、優しくて魅力的な彼に誘われ、せめてひと晩だけの思い出として親密な夜を過ごしてしまう。その直後、彼に正体を知られ、悪鬼のごとき怒りに触れるとも知らず。
パートタイム従業員のケイティは社長室に呼ばれた。会社の情報を、彼女を騙した元恋人に漏らしたと疑われたのだ。彼ほど不実な人のために、そんなことをするわけがないのに!潔白を訴えるケイティに、冷徹な実業家の社長ルーカスは言った。「大事な取り引きが終わるまでの2週間、君を監禁する」豪華なクルーザーに、監視役のルーカスと二人きり…。熱く燃える黒い瞳に見つめられ、無垢なケイティは身をすくめた。一方のルーカスは、大きな誤解のもと、こう思っていたー美しい顔で男に取り入る女だ、僕以外では手に負えなかろう、と。
屋敷と財産を賭博で失った父が蒸発し、シーアは独り取り残された。父は最後にサー・デヴリンなる貴族を相手に大負けして、彼女の花嫁持参金まで巻き上げられていた。路頭に迷ったシーアは苦渋の選択でサー・デヴリンの館を訪れ、切なる願いを申し出たー私をもらってください、と。デヴリンは突如現れたみすぼらしい身なりの女性の言葉に驚きつつも、理想の花婿と見るやつきまとってくる貪欲な令嬢たちを退けられ、跡継ぎも手に入るなら好都合と、彼女の願いを叶えてやることにする。半年前に見かけた瞬間から彼に恋していたシーアは舞い上がるが、初夜を迎えた翌日から、夫は急に冷たく無口になってしまい…。
「ここで子供たちのお世話をするのが本当に楽しみです」青白い顔のエマがほほえむと、医師のアダムは冷ややかにうなずいた。3年前の12月に妻に先立たれて以来、この時季はいつも不機嫌らしい。おかげで幼い双子は家族でクリスマスを祝ったことがないという。そんな彼らの屋敷に住み込みのナニーとして雇われたエマは、実は難病の治療が一段落したところで、密かに死を覚悟していた。全力で双子を愛し、懸命に楽しいクリスマスを贈ろうとするエマに怒りを見せるアダムだったが、やがて彼女の優しさに癒やされていく。これが私の人生最後のクリスマスなら、最高のものにしたい。そう強く心に願ったエマは、彼に無私の愛を捧げるが…。
「僕と結婚してほしい」大富豪のラファエルから突然求婚され、彼の経営するホテルで働くコーラは我が耳を疑った。頼みたい新しい仕事があるからとスペインへ連れてこられたけれど、鷲を思わせる、危ういほど美しい彼からまさか妻に指名されるとは…彼は土地買収の必要条件として便宜的に結婚したいのだと言い、せいぜい数週間で結婚は解消され、莫大な報酬も約束されるらしい。兄や姉と違い、どじで美しくもないコーラは両親に愛されずに育ち、先日も大事な家宝を他人に騙し盗られて叱責されたばかりだった。その損失を補って両親に認めてもらいたい一心で彼女は申し出を受ける。心の隅で、なぜ醜いあひるの子の自分が選ばれたのか、いぶかりながら。
フェイスは恋人クインと医学を志し、卒業後は結婚しようと誓っていた。だが大学進学を前に、彼女は理由も告げず、突然彼の前から姿を消した。あれから17年。亡き母の葬儀で帰郷したフェイスは、医師となって母の最期を看取ってくれたクインと再会を果たす。「フェイス?」以前より深みが増した彼の声を聞いた瞬間、なつかしさと、やるせない悲しみの涙が、彼女の頬を伝った。ああ、彼への想いは、あの頃と少しも変わっていない。でも…。一方、クインは彼女に寄り添っている若者に敵意を向けた。不穏な空気を察したフェイスは、いとまを告げてその場を後にしたー付き添いの青年の、17年前のクインとよく似た声に促されながら。
“そもそも君に近づいたのは、金のためだった”ある日突然、ロウィーナは心変わりした元婚約者から婚約破棄された。評判とプライドを粉々に打ち砕かれた彼女は心に決めるーたった20ポンドを手に、よその国で出自を隠して働き、家柄や財産とは関係なく生きていこう、と。やがて、目の不自由な老婦人のつき添いの仕事を見つけ、ロウィーナは故郷イギリスからはるばる海外へ渡った。雇い主の老婦人がいい人だとわかって安心したのもつかの間、その甥で広大な地所を相続するフォレストが、会って早々に言い放った。「これまでのつき添いのように、僕の妻の座を狙っても無駄だぞ!」