著者 : 太田良子
仕事か恋愛か? ロンドンに同居する義姉妹それぞれの恋愛を 1930年代戦間期のモータリゼーションにのせ結末のカタルシスへーー エリザべス・ボウエンの長篇第4作 〈ボウエン・コレクション2〉第3回配本 エメラインは25歳、兄ヘンリーがセシリアと結婚して1年足らずで他界した機縁から、義姉セシリアとロンドンにあるフラットを共有し暮らしている。優雅で怠惰な未亡人のセシリア、マイカーを持ち旅行会社を営む20世紀のキャリアウーマンのエメライン。セシリアはイタリアから帰る急行列車の車中で、法廷弁護士マーキーと知り合う。世慣れたマーキーはまもなくエメラインに接近し、飛行機でパリに遊ぶ仲に。セシリアは無難で裕福なジュリアンから求婚される……。結末のカタルシスは? 「ページを開けばすぐに物語が動きだし、 会話だけ追っていけば話の大筋がわかってしまうという 読者に媚びを売るサービス小説の対極にあるのが、 エリザベス・ボウエンの作品だ」 豊崎由美氏推薦!
〈ボウエン・コレクション2〉全3巻 第1回配本! 20世紀英国文壇を代表する作家エリザベス・ボウエン。 1920-30年代という戦間期の不安と焦燥を背景に、 ボウエンならではの気配と示唆に浮かぶ男女の機微ーー。 本邦初訳の初期小説三冊を集成した待望のコレクション。 イタリア・リヴィエラ海岸のホテルはホリデー客でにぎわっている。医者になりたいシドニー・ウォレンは受験の疲れを癒しに、束の間ここにきている。彼女は倦怠感を漂わせる未亡人ミセス・カーに心惹かれる。ミセス・カーには20歳の息子ロナルドがいて、ドイツからここにやってくるという。ミルトン牧師、ロレンス三姉妹、第一次大戦の後遺症に悩む青年アメリングをまじえ恋がもちあがり……。イギリスの風習喜劇の雰囲気と1920年代戦間期の不安な心理を、地中海の陽光まぶしいひと夏に鮮やかに浮かび上がらせたボウエンの手腕、長篇デビュー作。 豊崎由美氏推薦! 「ボウエンは会話だけでなく、描写によってそこで何が起きているのかを示す。登場人物の行動、いる場所、そばにある物、聞こえている音、すべての描写を総動員させて、ボウエンは登場人物の発する言葉の背後にある気持ちや意味、それが発せられた理由となる過去を匂わせる。 だから、一行たりとも読み飛ばせない。丁寧に文章を追っていく読者だけが、ボウエンがそこここに仕掛けている小説の技巧に舌を巻き、物語全体の絵柄が浮かび上がってきた時の喜びを得ることができるのだ」(パンフレットより抜粋) 太田良子(訳者) 「エリザベス・ボウエンは1899年にアイルランドのダブリンで生まれ、1973年にイングランドのロンドンで死去した。文字どおり20世紀と共に生きたボウエンは、二つの祖国を持ち、300年間イングランドの植民地だったアイルランドの宿命的な独立戦争、世界を荒廃させた二度の世界大戦に関わって創作活動の根底に置き、長篇小説10篇と短篇小説約100篇を書いた。今回の〈ボウエン・コレクション2〉に入った『ホテル』は彼女の初めての長編小説で、先行の〈ボウエン・コレクション〉の『エヴァ・トラウト』はボウエンが完成させた最後の小説であり、ボウエンの小説全10冊が国内ですべて刊行されることになった。ボウエンの作品は21世紀の今、文学や歴史や世界観の新しい潮流を検証する意味であらためて評価が進む一方、ボウエンは緑の国アイルランドのホスピタリティと、美しい庭園を持つ荘園屋敷を受け継ぐイングランドの文化を愛して作品に籠め、移り替わる自然を、春夏秋冬、忘れられない美しいシーンにして数多く描き出している。白いモスリンのドレスの少女、断髪にして短いスカートでロンドンを闊歩する女は、それぞれに時代を表わし、ヒロインが運転するダイムラーやジャガーは、時代の先端を行く高級車である。小説や短篇のヒロインを通してフィクションが見せる広い世界の可能性を切り開いた点から見ても、エリザベス・ボウエンは他の追随を許さぬ作家である」(パンフレットより)
十六歳の少女ポーシャは両親を亡くし、年の離れた異母兄トマスとその妻アナの豪華なロンドンの屋敷に預けられる。「娘に一年だけでも普通の家庭生活をあじわわせてやってほしい」という亡父の遺言を受けてのことだった。 その家には人気作家や元軍人をはじめ、夫妻の友人たちがよく訪れた。ポーシャは、アナの客人で、不敵な世界観を持つ美青年エディに心魅かれていく。寄る辺のないポーシャは、手紙と日記に心をゆるしていて、手紙をくれたエディには、彼女の日記を読ませてあげた。しかしもう一人、その秘密の日記を覗き見る大人の影が……。 無垢な少女のまわりで、結ばれ、もつれ、ほどけていく人間の絆……心理の綾を微細に描き、人生の深遠を映し出す、稀代の巨編。 第1部 世界 第2部 肉欲 第3部 悪魔 年譜 訳者あとがき
ステラの部屋に招かれざる客、ハリソンが押し入ってきた。彼女の愛するロバートが、敵国のスパイであることをほのめかし、黙っていてほしければ…とステラに関係を迫ってくる。ロバートがスパイなのかどうか、本人に聞けばわかるはず。でも、もし本当にスパイだとしたら、このままふたりの関係を続けていくのは難しい…。恋人どうしであっても詰め寄れない難問をかかえ、ステラは戦時下のロンドンを彷徨う。先行きのない人々の倦怠が、夕暮れに漂っている。この厄介な状況は戦争のせいなのか、それとも、この現実があってこそのふたりなのか。第二次大戦下のロンドンの実相を描き、ボウエンの哲学的ともいえる人間考察が、その深淵をみせる傑作長編。
11歳の少女ヘンリエッタは、半日ほどあずけられたパリのフィッシャー家で、私生児の少年レオポルドに出会う。レオポルドはまだ見ぬ実の母親との対面を、ここで心待ちにしていた。家の2階で病に臥している老婦人マダム・フィッシャーは、実娘のナオミとともに、自宅を下宿屋にして、パリに留学にきた少女たちをあずかってきた。レオポルドの母も結婚前にそこを訪れたひとりだった。青年マックスもこのパリの家をよく訪れていた。パリの家には、旅の途中、ひととき立ち寄るだけのはずだった。しかし無垢なヘンリエッタとレオポルドの前に、その歪んだ過去が繙かれ、残酷な現実が立ち現れる…。20世紀イギリスを代表する女流作家、エリザベス・ボウエンの最高傑作。