著者 : 宇能鴻一郎
【2025年2月現在、新本が定価(2,400円+税)で購入可能】 「人間である最後の夜に、わたしはこの手紙を書きます。」(「甘美な牢獄」より) やむにやまれず暗い官能の洞窟へおちこんでいった者たちの、圧倒的なエロスの世界が、いま甦る。稀代の物語作家が描く「この世の地獄」は、煌びやかで残酷な夢想のユートピアであった。 芥川賞を受賞して華々しく文壇に登場した宇能鴻一郎は、1960年代から70年代前半にかけて、濃密な文体で性の深淵をえぐる作品集を40冊余り刊行した。しかし先鋭的すぎたためか当時の文壇ではほとんど無視され、著作も軒並み絶版になっていった。それから半世紀以上を経て、いまようやく宇能文学への関心が高まっている。恐怖とエロティシズムによって性の根源に迫った真正の文学世界は、いま読んでも比類なく新鮮で、麻薬的・原初的な文章の力に圧倒されるだろう。むしろ現代でこそ受け入れられる性質の作品群と思われる。 「この世の地獄を描いて宇能氏の右に出るものはあるまい」と筒井康隆に絶讃された「甘美な牢獄」、思春期の青い性が清冽な「光と風と恋」、満洲で世界の汚辱にあらがう少年の復讐譚「野性の蛇」、谷崎や乱歩の後継となるユートピア奇談「殉教未遂」「狂宴」「神々しき娼婦」、不良少年の優しさに満ちた「雪女の贈り物」「官能旅行」の全8篇を収録。 ※七北数人氏を監修者に迎えた「シリーズ 日本語の醍醐味」は、“ハードカバーでゆったり、じっくり味わって読みたい日本文学”をコンセプトに、手に汗握るストーリーではなく、密度の濃い文章、描写力で読ませる作品、言葉自体の力を感じさせる作品を集成してゆきます。 光と風と恋 雪女の贈り物 野性の蛇 殉教未遂 狂宴 甘美な牢獄 官能旅行 神々しき娼婦
みずみずしさに溢れた女性の告白文体を確立し、官能小説の一時代を築いた芥川賞作家・宇能鴻一郎の代表作が、今、よみがえる!文庫初刊から七篇を精選。連載当時の挿絵も収録。
あたし、健康な女子高二年生。固肥りだけど、体臭が強くて、肌がところどころ、ざらついてるのが悩みなんです。一年のときから美術の先生が好きになって、ずっと、思いつづけていて、先生が結婚してから、とうとうガマンできなくなって、「一度、外で会ってください」と言ったんです。そして、とうとう先生にせがんで第三京浜ぞいのモーテルに連れこんで、もらったんです。先生ははじめ迷惑そうだったけれど、でも、あたしとベッドに入ると、先生、すぐ熱心になってきて…。
あたし、社長秘書なんです。スタイルが良くて歩き方がとてもきれいだって言われるんです。ある日、退社時刻後も独りで社長を持っていると営業部の山本主任がやって来たんです。カレ、社内でも有名なセクハラ男で。営業部隊の斬り込み隊長なんだけど、まさかあたしのパンティに突撃してくるなんて…。「社長秘書のパンティ」他、九篇を収録。OLたちの赤裸々な性態を綴ったエロチック・コメディ。
好遇という文字につられてソープランドのボイラーマンになったボクは、入社したその日に童貞を奪われ、一日五人のソープ嬢の練習台にさせられる羽目になった。これじゃ体がもたないよ、と嘆いていたら、コワーイ女社長が今度はソープ嬢をスカウトしてこい、という。ボクはもう破れかぶれで街に飛び出し、女の子にアタック開始…。哀しくもおかしいボクのソープランド奮戦記。
あたし、女子高出たてのホテルのメイドなんです。都心のホテルって、ほんと刺激強い。ドキドキ、ワクワクで、処女のあたしには恥ずかしいことばかり。新婚さんの泊ったお部屋からは、使用済みのゴム製品が3つも。ハイミスのお部屋からは、くたびれたヘンなものが。ほんとに助平なことばかりで、どうなっちゃうのかしら…。著者独壇場の長篇ユーモア・エロチカの傑作。
あたし、女子体育短大を出たばかりの、新任教師なんです。腕も腿もピチピチした、二十歳なんです。悩みといえばお乳が大きすぎることくらい。でも体育ひとすじだったので、男性経験、ぜんぜん、ないんです。あたしが体操着に着がえると、体育主任の安田先生や、同僚の中村先生の、熱い視線が痛いくらい。それに、校長先生だって。今日は、性教育の日。すごい質問されたらって考えただけで、ドキドキしちゃう。
あたし、28歳の淫乱な女課長なんです。社長をはじめ、部長も、平社員も、あたしのムチムチの肉体が目当てで、舌なめずりして寄ってくるんだけれど。あたし、気の向いたときにしか、このからだを投げ出してやらないんです。でも、仕事がらみだと、イヤな相手にも、つい、させてしまうことが、あるんだけれど。で、あたし、ある建設会社に沖縄のゴルフ場の建設を安く請け負わせるため、その建設会社の実力部長に近づき、彼の沖縄旅行に同行して、熟れきった肉体をフルに使って迫ったんです。あたしの必死のお色気戦術でも陥落しない部長に業を煮やして、あたし、とっておきの奥の手を使ったんです…。
あたし、レイコ。人妻看護婦なんです。20年前、大学1年生の夏、軽井沢の別荘の浴室で上級生の和彦に処女を棒げる瞬間、暴漢に襲われ、彼と別離の運命に。娘はもう18歳。昔のあたしに似て、和彦オジさんにゾッコン。でも暴漢は許せない。あの男とあたしが結合するとアザが重なるの。これが鍵。持参のメスが血に飢えてるわ。
うちの人、久しぶりに長崎から帰ってきたんです。あたし、きっと今夜、この人とするんだよ。この人、アレがうまくなったかしら。なんて考えてると、いっそう気分が高ぶっちゃって、あそこが、シュンと音を立てるみたいにして、あふれるのが、わかるんです。-色事大好きな大工の若女房がまきおこすエロチック・ハプニングを明るいタッチで描く。
あたし、33歳、社長夫人。主人、あたしを他の男に抱かせて、その反応を見てみたいというヘンな欲望をもちはじめた。今夜も会社の新入社員を連れてきたー。酔って寝込んだ社員のフトンに忍び込んだあたし、ブリーフの前を大きくしているカレを見て、もうガマンできなくなって、ジュン、と。あたし、やっぱり好色なのかしら…。
「ああ、奥さんの、名器だ。すごいですねえ、よく締まる。しかもザラつきがいい」といいながら医師の御主人、さらに深く入れてくる。主人も、医師の奥さんも、ベッドの上に起き直って、こっちをじっと眺めている。-初体験のスワッピングに戸惑いながらも、甘美な官能に痺れる人妻を濃艶な筆致で描く。
あたし、タンテイ学院を卒業、探偵事務所に勤めるセクシー・タンテイ。所長はS・ホームズばりの男前だけど女嫌いみたい。ところが恩師の学院長が殺された。さあ犯人をあげなくちゃ。とたん、女の尻を追う光輪坊ケイジ、忍法処女破りの白雲斎、名器を備えた人造美人研究家が現われて…。あたしの処女のほうはどうなるの?