著者 : 小林恭二
満州で生まれ、朝鮮で育ち、一高・東大に進学した輝かしい経歴の「父」は、反面、十代で結核に罹患し、敗戦の引き揚げで弟妹を失う挫折を味わった。天才的資質ゆえに深かった屈託は、独特の直情的行動に現れ、家庭では小学生の「私」に毎夜文学や哲学を講義し、庭中を花で埋め尽くした。そして、鉄鋼会社の役員を退いた後は、自ら死をたぐり寄せるかのようにせき止めシロップを多飲する。鮮烈だった「父」の生と死。
21世紀のカブキ界に君臨するのは、果して誰かー世界が注目するなか華麗な「顔見世」が琵琶湖畔の巨大な船舞台・世界座で幕を開ける。だが、その水面下では、守旧派の名女形と改革派の人気立役者が、凄絶な勢力争いを繰り広げていた。美少女・蕪は、謎の手紙に誘われる形で騒動に巻き込まれ、世界座舞台裏の怨念渦巻く大迷宮に迷い込む。蕪に託された「使命」は?三島賞受賞作。
電話こそ知恵の根源であり、電話コードこそ人間の連帯の具現であるー「電話」を通し、現在の閉塞感を打破し、絶対的なコミニュケーションを実現しようと企てる“電話男”たち。到来したインターネット時代を早々と予見し、その果てにある光と暗黒を斬新な文体と秀れた想像力で描き出した不朽の名作。
秀吉も、明智光秀も、森蘭丸も…誰もがみんな、信長の首を愛してた。リセットを繰り返しても繰り返しても、あっと言う間に斬り落とされる信長の首。それは誰もが信長の首を愛してたから…。シュールでエロティックな快作「首の信長」をはじめ、日本史の沃野を縦横に駆けめぐる驚天動地の連作集。
父は、一高でバンカラを演じ、療養所では悩めるインテリ青年となり、経営者にまで昇りつめた会社では偽悪家・変人・趣味人を気取った。そして晩年、「緩慢なる自殺」を図る。戦争と結核に行く手を阻まれ、それでもなお、自分の可能性を求め続け、最期まで苦闘する父。時代に、運命に、抗い続けたひとりの男を描く長篇小説。
強大なる経済力のため、多国籍軍の猛攻を受け『永遠に経済力を保持しない』という条文をのまされた日本国の底力を描く表題作。父を五輪のメダリスト、母をノーベル賞受賞の物理学者に持つIQ186の天才青年が凡庸なる日本人を目指す悲喜劇「インドから来た青年」など、抱腹絶倒のパロディカル・コメディーとも痛快無比の知的文系SFとも大絶賛された愉快な愉快なケッサク9編。
多国籍軍により日本国は滅亡、しかし世界中の人間が日本人化しはじめ…。「日本国の逆襲」、力士が巨大になりすぎて恐竜化してしまう「大相撲の滅亡」、無期限に旅行を続ける謎のパックツアー「千年観光団」。-日本文化に対するシニカルな諷刺もきいた小林恭二初めての傑作エンタテインメント。
徳を尊ばれた男が、荒野の国の人々に謀殺された後に鬼と化し、迷いの世界を生きかわり死にかわる姿を説話的に描く表題作ほか、破壊するにはあまりに凡庸な現代の生を、そして書く行為を根源的に凝視する六篇。
うらぶれた場末の遊園地、「下高井戸オリンピック遊戯場」は双子の天才、藤島宙一・宙二兄弟の卓越した経営手腕により急成長を遂げ、「ゼウスガーデン」と名を変えて、ありとあらゆる欲望を吸収した巨大な快楽の王国となってゆく。果てなき人間の欲望と快楽の狂走を20世紀末から21世紀までの百年という壮大なスケールで描く快作長篇。
孤独な老人の飢餓死によって発見された500巻の壮大な長篇小説は、人類に何をもたらしたか?この小説をめぐって、狂騒するマスコミ、昏睡する読者、跳梁する犯罪集団ー想像力の盲点を突いた過激な表題作に、無為の日常からの脱出を幻想的寓意で描いた「迷宮生活」を併せて収録。
電話こそ知恵の根源であり、電話コードこそ人間の連帯の具現である。-現代人の絶対的交流を電話コードを通して実現しようと企てる〈電話男〉たち。現在が孕む人間の閉塞を、斬新な文体と想像力で描き出した表題作と姉妹篇「純愛伝」を収録。