著者 : 小笠原豊樹
「単一国」に統治された世界では、人々は監視下に置かれながら疑問を持たなかった。 だが主人公はある女性と恋に落ち、世界の綻びに気づく。1920年代ロシアのディストピア小説の先駆的名作。(解説中島京子)
無類に面白い短篇小説選集 1930年代の大不況時代、そして第二次大戦、さらには傷だらけの戦後を背景に、アーウィン・ショーは数多くの短篇小説を書いた。もっとも有名な「サマードレスの女たち」(「夏服を着た女たち」)は「ニューヨーカー」に掲載され〈都会小説〉の名作として日本でも多くの読者を得てきた。しかし、時代順に配列され、まるで長篇小説のように編集された本書を読むとまったく別の像が浮かんでくる。 三十年代のアメリカ人の群像(タクシー運転手、保安官助手、フットボール選手など中産階級以下の民衆)が生き生きと描かれ、第二次大戦下の兵士たちは困憊し、惑乱している。そして戦後ーー最後に収められた「いやな話」はまるで悪化した「サマードレスの女たち」のようだ。 《「時代」の歩みが、この作家の鋭敏なレンズを透過して屈折し、現実の情報よりも遥かに現実的なかたちで、あなたの胸に像を結ぶだろう》 劇的な構成力と、無類に面白い筋の展開を堪能できる傑作短篇集成、待望の文庫化! ●装丁/平野甲賀
火星への最初の探検隊は一人も帰還しなかった。火星人が探検隊を、彼らなりのやりかたでもてなしたからだ。つづく二度の探検隊も同じ運命をたどる。それでも人類は怒涛のように火星へと押し寄せた。やがて火星には地球人の町がつぎつぎに建設され、いっぽう火星人は…幻想の魔術師が、火星を舞台にオムニバス短篇で抒情豊かに謳いあげたSF史上に燦然と輝く永遠の記念碑。著者の序文と2短篇を新たに加えた新版登場。
慈善家の老婦人が殺され、評判の悪い養子のジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で死んだ。それから二年後、外国から帰ってきた男が、ジャッコの冤罪を告げに遺族の住む屋敷を訪れた。が、その来訪は遺族にとって迷惑だった。落着したはずの事件が蒸し返されることになったのだ。
イギリスの中産階級に生れ、オクスフォードを出た青年ニコラス・アーフェは、すでに人生にある種の虚しさを感じていた。ある女性とのエロティックな恋が終ったのをきっかけに、英語教師としてエーゲ海の孤島に渡る。そしてそこで不思議な老人コンヒスに出会う。次々と起きる、複雑怪奇な出来事…。サスペンスあふれる恋愛小説、冒険小説、そしてオカルティズム哲学の稀有な物語。
一枚の絵のために祖国ロシアを追放された画家バラノフ。ヒトラーのドイツからも追われアメリカに渡るが…亡命生活を送る画家の悲哀を描く「緑色の裸婦」他六編。第二次大戦から冷戦へ。時代を読みながら、芸術家、中年夫婦、若者たちのすがたをドラマチックな構成力としゃれた語り口で活写するショーの傑作短編集。