著者 : 小笠原豊樹
そこ「単一国」では「守護局」の監視のもと、「時間律令板」によって人々の行動は画一化され、生殖行為も「薔薇色のクーポン券」によって統制されている。自然の力は「緑の壁」によってさえぎられ、建物はガラス張り。人々に名前はなく、ナンバー制だ。そして頂点に君臨する「慈愛の人」に逆らう者は、「機械」によって抹消される。-1920年代初頭にロシアで書かれたディストピア小説の先駆的名著。
一九三〇年代の大不況時代を生きる、タクシー運転手や若い夫婦、保安官助手やフットボール選手などの不安と恍惚と激情のドラマから、第二次大戦下の倦怠し惑乱している兵士たちの人生へ、そして、無残でグロテスクな戦後の幻滅を描く現代の物語までー。ショーの全作品を愛しぬいた名訳者が、厳選した短篇を時代順に配列し、まるで長篇小説のように編集した傑作集。“「時代」の歩みが、この作家の鋭敏なレンズを透過して屈折し、現実の情報よりもはるかに現実的なかたちで、あなたの胸に像を結ぶだろう。”劇的な構成と無類に面白い筋の展開を堪能できる十六篇。
暑い昼下がりにもかかわらず、その男はシャツのボタンを胸元から手首まできっちりとかけていた。彼は、全身に彫った18の刺青を隠していたのだ。夜になり、月光を浴びると刺青の絵は動きだして、18の物語を紡ぎはじめた…。流星群のごとく宇宙空間に投げ出された男たちを描く「万華鏡」、ロケットにとりつかれた父親を息子の目から綴る「ロケット・マン」など、刺青が映しだす18篇を収録した、幻想と詩情に満ちた短篇集。
慈善家の老婦人が殺され、評判の悪い養子のジャッコが逮捕された。彼はアリバイを主張したものの有罪となり、獄中で死んだ。それから二年後、外国から帰ってきた男が、ジャッコの冤罪を告げに遺族の住む屋敷を訪れた。が、その来訪は遺族にとって迷惑だった。落着したはずの事件が蒸し返されることになったのだ。
イギリスの中産階級に生れ、オクスフォードを出た青年ニコラス・アーフェは、すでに人生にある種の虚しさを感じていた。ある女性とのエロティックな恋が終ったのをきっかけに、英語教師としてエーゲ海の孤島に渡る。そしてそこで不思議な老人コンヒスに出会う。次々と起きる、複雑怪奇な出来事…。サスペンスあふれる恋愛小説、冒険小説、そしてオカルティズム哲学の稀有な物語。
一枚の絵のために祖国ロシアを追放された画家バラノフ。ヒトラーのドイツからも追われアメリカに渡るが…亡命生活を送る画家の悲哀を描く「緑色の裸婦」他六編。第二次大戦から冷戦へ。時代を読みながら、芸術家、中年夫婦、若者たちのすがたをドラマチックな構成力としゃれた語り口で活写するショーの傑作短編集。