著者 : 山崎美穂
記憶の芸術家、ノーベル文学賞受賞後の第一作。 小さな偶然と大きな奇跡──忘却と想起を詰め込んだ、日本語版オリジナル編集の小説集。 眠れる記憶 ──僕は、街角でしか人が真に出会うことはあり得ないと長らく信じていた。 老齢を迎えた語り手が、六十年代を生きた自らの激動の青年期を振り返りながら、記憶の奥底に眠っていた女性たちとの出逢い、別れ、そして再会の思い出を想起する。ノーベル文学賞受賞後初の作品となる表題作。 隠顕インク ──この人生には空白がいくつかある。 パリから失踪した女性を捜し出すという任務を授かった主人公は、彼女が住んでいたと思われるアパルトマンで一冊の手帳を発見する。三十年後、自ら調査を再開して目撃者を追跡するのだが……。 眠れる記憶 隠顕インク
パリとカリブ海、一族の物語。 小さな島の一つの家族の歴史と世界の歴史・人・文化が混ざり合い、壮大な物語が展開されるーー。 カリブ海/全゠世界カルベ賞などを受賞し、各所で好評を博した著者デビュー小説! パリの街外れに生まれ、父がルーツを持つカリブ海のグアドループ島とは肌色と休暇時の記憶のみでしか接点を持たない若い女性である「姪」が、家族のルーツを求めて自身の父と父方の伯母たちに話を聞きながら一族の歴史を掘り起こし、自らの混血としてのアイデンティティを練り上げていくーー。 複数の言語の間で、語り手の三姉弟はそれぞれに、自らの望むありようや生き方にふさわしい言語態度を探り当てようとした。(…)「姪」も、クレオール語を母語とはしていない。十全に話せるわけでもない。それでも「姪」はグアドループから受け継いだ何かを「自分の体の内に、言語の内に、世界の多様性の受け止め方の内に感じて」(…)いたし、「すべての大陸を旅した迷えるさすらい人たるアンティル人」(…)としての「自分の来歴とそれを形作るものを愛することを学んでいた」(「訳者あとがき」より)