著者 : 岡本さとる
秋月栄三郎は又平を伴い東海道を大坂に向かっていた。幼少時に通った剣術道場の師・山崎島之助の具合がよくないという文が、父・正兵衛からとどいたのである。彼の剣の原点は山崎道場にあったー野鍛冶の家に生まれ武士に憧れた少年が、いかにして気楽流剣客として“手習い道場”を構えるに至ったか。取次屋を育んだ人々の大活躍に笑いと涙の花が咲く浪花人情譚。
居酒屋の名物女将・お夏の許に、髪結の鶴吉から思わぬ報せが届いた。二十年前、お夏の母を許し難き理由で無礼討ちにした才次が名を変えて船宿の主に納まっているという。凄まじい殺人剣の遣い手を用心棒に雇い、温和な仮面を被る才次を討つため、お夏は料理人の清次らと共に策を巡らした大勝負に挑む。無念と憤怒を晴らすシリーズ待望の第三弾!
直心影流の継承者を決める大仕合から四年。三田に剣術道場を構える峡竜蔵は幼馴染である綾を妻に迎え、その翌年には長男・鹿之助を授かっていた。順調に門弟も増え、賑わいを見せる峡道場。そんなある日、綾は、竜蔵が幼い頃から生活の面倒をみてきた内弟子・雷太の様子にどこか翳りがあることに気づく。いつもは明るく道場の人気者、雷太の変化の理由とは…。夫となり父となっても己が剣の道を生きる峡竜蔵が、今度は信愛する弟子たちを厳しく温かく育てていくー。大好評「剣客太平記」シリーズ、新たなる始動。
口は悪いが、料理は旨い女将のお夏。常連客である貧乏浪人の亀井礼三郎・春之助親子の前に、家を捨てたはずの女房・おせいが現れた。春之助を強引に取り戻そうとするおせいの背後に怪しい影を感じたお夏が、料理人の清次と突きとめた姦計とは?客のささやかな幸せを守るため、艶美な姿で悪事を暴くお夏の活躍を描いた待望のシリーズ第二弾。
並木一刀流の遣い手である雄之助の妹・留以は仕合中、女武芸者に怪我を負わされた。無慈悲な仕打ちだった。留以の友で岸裏道場の門弟であり、大店の呉服屋・田辺屋の娘であるお咲は憤り、女武芸者を挑発する。一方、田辺屋の主・宗右衛門と長男・松太郎は、お咲の嫁入りを巡って意見が対立。宗右衛門が秋月栄三郎を頼ってきたー。“取次屋”の面目躍如となる妙案とは!
天下の往来で破落戸と行き違った栄三郎は、その顔に見覚えがあった。前夜、行きつけの居酒屋“そめじ”の女将・お染と話していた男だった。“取次屋”の勘であとをつけると、向かった先にはお染が。不審を覚えた栄三は“お節介”を始めるが…。やがてお染の過去と迫る危機を知った時、栄三が下す決断とは?一筋縄ではいかぬ浮世の闇に、栄三の優しさが灯をともす!時代小説書下ろし。
手習い子の一人・太吉が新参の巳之吉を殴った。理由を言わぬ太吉に、太吉の非を言い募る巳之吉。双方納得がゆく“納め時”を見極めんとする師匠の秋月栄三郎だったが、即座に太吉を叱らぬ栄三郎に巳之吉の父・儀之助は激高。結果、巳之吉は姿を見せなくなり、栄三郎には不穏な影が…。剣客にして取次屋、その表の顔は手習い師匠。栄三が示す心温まる人生指南とは?
久しぶりに医師・土屋弘庵の許を訪れた秋月栄三郎は、医術を学ぶ捨吉を見て安心した。物心ついてから二親に捨てられてぐれ、悪辣な取立屋に堕ちた捨吉を弘庵の弟子にしたのは栄三郎だったのだ。だが、その翌日、弘庵が訪れ、捨吉の様子がおかしいと言う。どうやら自分を捨てた母親・おふねに出会ったらしいのだが…。母子の断絶を埋めるべく“取次屋”栄三が心を砕く!
七月お盆、秋月栄三郎は日本橋の呉服屋・田辺屋宗右衛門に誘われて相模国へ大山詣りに出た。途中、一人詣でのおきんと知り合い同行することに。何やら屈託を抱えている様子だが理由を話さない。だが、そんなおきんを付け狙う二人組を取り押さえたことで、彼女が五十両もの金を持っていることが判明し…。ほろっと来て、笑える!ますます冴え渡る栄三の“取次”。
町人ながら剣客となった秋月栄三郎は侍の世界に失望、人生に迷っていた。そこへ大坂に暮らす父・正兵衛が現れ、知己の老親分・洞穴の源蔵の世話を命じる。昔、火付盗賊改方の手先だった源蔵も、今や“法螺吹きの”と揶揄される隠居暮らし。その大法螺に苛立つも、父の語る人生の極意を信じ、世話を焼き始めるが…。じんと来て、泣ける!感動の“取次屋”誕生秘話。
廃業した名煙管師鉄五郎に、もう一度煙管を作らせたい。が、これがとんでもない難問だった。武家と町人の間を取り持つ取次屋、秋月栄三郎は極めつきの頑固者の家に日参。やがて愛娘と婿との確執が廃業の原因と突き止め二人に会いに行くが、こちらも親父顔負けの頑固者だった。(「がんこ煙管」より)笑いと涙、さらに爽やかな読後感を与える、時代人情小説の決定版。