著者 : 村山汎子
白血病に冒された教師アントニアは、残された日々を家族と過ごすため、二度と帰るつもりのなかった故郷の町へ戻ってきた。9年前の、壊れてしまいそうなほど傷ついた記憶がよみがえるー愛する恋人パウエルとの結婚を控え、幸せの絶頂にいたさなか、アントニアには愛人関係にある別の男がいるという噂が立てられた。もちろん根も葉もない作り話だったが、パウエルは怒って婚約を破棄し、あろうことか、噂を流した彼女の親友と結婚してしまったのだ。思い出すだけでもつらいのに、今、さらなる皮肉な運命が待っていた。代任教師を務めることになった母校の担任クラスに、町の有力者となったパウエルと、今は亡き妻の娘がいるとわかったのだ!
年金暮らしの両親のため、少しでも家計の助けになればと、診療所の受付係として働き始めたマチルダ。雇主のドクター・ラヴェルは魅力的な男性だったが、彼女は思った。母にさえ不器量と言われる私では彼を惹きつけられない。だから、この想いは隠そう、と。案の定、ドクターは地味な受付係などまるで見えない様子で…(『片思いの日々』)。ローレンは自らの運転中に事故で愛娘を失って以来、心が塞ぎ、すれ違いから会社社長の夫ザックと別居。でも、まだ彼を愛していた。心から。本当の別れを考えては切なさに胸を締めつけられるローレンだったが、ある日、突然弁護士に呼ばれて事務所に赴くと、ザックと鉢合わせした。まさか、とうとう彼は離婚を決意したの…?(『星降る夜の奇跡』)。故郷を離れてシカゴで孤独に暮らすクリスティのもとに、匿名で薔薇の花束とメッセージが届いた。ストーカーの影におびえていた彼女は警察に通報するが、駆けつけた刑事の姿を見て、思わず目を疑った。なんとそこには、かつて彼女が初めて恋し、破れた相手スコットが、すっかりたくましい大人の男性となって立っていたのだ!(『危険な薔薇』)。新たな人生をつかむシンデレラたちの感動ロマンス!
母のいない幼い双子の兄弟は、サンタクロースにママをお願いしようと決めた。そんな彼らは音楽教師のネルこそが“その人”ではと期待する。ネルも、無口で不愛想だが魅力的な、双子の父のマックに惹かれ、会うたびに想いを募らせるが、彼はにべもなく告げた。「女性の相手をしている暇も、なにかを始める気もさらさらない」(『サンタがママを連れてきた』)。妊娠を告げたとたんに捨てられたメグは、独りで息子を育ててきた。最近、イタリアから来た医師ディノが誘いをかけてくるが、プレイボーイは信用できなかった。もう傷つきたくない。何より、彼になついている息子を傷つけたくない。だがそんなメグの思いをよそに、息子はディノを父親代わりに授業参観へ呼びたいと言いだし…(『雪原で誓いのキスを』)。裏通りのカフェで働くケイトは、荒っぽい客にからまれたところを、上等なスーツを着た男性客に助けられた。その夜、彼女は新聞で、彼が有名な投資会社の社長アーロンだと知る。別の日、姉が倒れて取り乱したケイトを、自家用機でロンドンまで送り届けてくれたのも彼だった。こんなすてきな人が、なぜ私に親切にしてくれるの?(『冬のシンデレラ』)。真冬に心温まる、感動のシンデレラ・ストーリー!
「彼女に結婚式を台なしにされてたまるものか」ミラノの大富豪マルコ・ダンジェロの声がサロンの高い天井に響いた。幼なじみの公爵家令嬢との結婚を2カ月後に控えている。ところが、別れた妻のペイトンが幼い双子の娘たちを連れて、突然サンフランシスコからやってきたのだ。ペイトンの目的は、娘たちをマルコに託すことだった。二度と戻らないつもりでいたミラノを再び訪れたのは、医師に残酷な事実を突きつけられたから。ペイトンは亡き母と同じ、不治の病におかされていた…。
実業家アダム・ターメインの秘書クラリスは、アダムとともに彼の生家である大邸宅に引っ越してきた。二人は1歳になる赤ん坊を連れていた。アダムの親友夫妻の子だ。事故に遭った夫妻に代わり一時的に世話をするためだったが、名家の御曹司であるアダムが女性と子供と現れたことで、古くからの周辺住人たちがいっきに色めき立つ。実は密かにアダムを愛していたクラリスの心中は複雑だった。一生独身のまま彼のために働き続けるつもりだったが、近頃はつい、結婚して子供を持つ、幸せな自分の姿を想像してしまう。赤ん坊を抱く彼女を優しく見つめる夫はもちろん、アダムだった…。
兄が拉致されたという知らせを受けたクリスティは、いま、とある国の権力者との面会にうち震えていた。シーク・シャリフ・ビン・ユセフ・アル=サエド。世界を股にかけた実業家として、その名を知られる大富豪だ。だがクリスティには、彼の取り澄ました美しい仮面の下に、冷酷非情な顔が潜んでいるように思えてならない。事実、クリスティの必死の懇願さえ、鼻であしらい、自分の愛人になるなら考えようと、こともなげに言い放ったのだ。クリスティの美しい髪や肢体を無遠慮に品定めしながら。
ルーシーは取引先の重役から執拗な誘いを受けているところを、居合わせたアメリカ人男性、シンクレアに救われた。激しく惹かれ合った二人はその夜のうちに愛を交わしたが、行きずりの関係など持ったことのないルーシーは、ひどくうろたえ、さよならも言わずに部屋から逃げ出した。その夢のひとときで、彼の子を宿したとは思いもせずに…。数日後、ルーシーはいとも簡単にシンクレアに見つかってしまう。驚いたことに、彼はルーシーの勤め先を傘下に持つ経営者だった。昇進のためにぼくを誘惑したんだろうと決めつけられても、ルーシーは、震えながら吐き気をこらえることしかできずにいた。
サンチャのもとに、ある日、匿名の手紙が届いた。そこに書かれていたのは、夫が秘書の若い女性と逢瀬を重ねていて、今夜も彼女の家で会うという衝撃的な内容だった。まさかとは思ったが、確かに夫のマークはこのところ帰りが遅く、夫婦の間もなんとなくぎくしゃくしているのは否めない。その夜、思い悩んだ末にサンチャは、秘書の家に電話をしてみた。すると、受話器の向こうから聞こえてきたのは、紛れもなく夫の声。あわてて電話を切り、目を閉じた。ああ、なんてこと…。嫉妬が全身をむしばみ、悲しみと怒りが心を苛む。その日から、サンチャの結婚生活は苦痛に満ちたものになった。