著者 : 村木美涼
どうしていままで忘れていたのだろう。あんなに先生が大好きだったのに…。看護師の美咲は冷蔵庫を被写体にした写真を目にし、14歳の時に出逢ったピアノの先生を思い出した。チェルニーの練習曲をうまく弾けない美咲は、ピアノに嫌気がさしていた。そんな時に出逢ったのが由貴奈だった。楽譜通りに弾くことを強いる他の先生と違い、由貴奈はあなたらしく弾けばいいと言葉をかけてくれる。そして「悲しい曲を弾く時は、捨てられた冷蔵庫を思い浮かべればいい」と不思議な優しい言葉をかけてくれるが、そこには由貴奈の悲しい過去が隠されていた。ほどなく由貴奈の老齢の父が奇妙なことを呟く。「あの子はピアノが誰より上手だった。人としては許されないことをしたけれど」やがてピアノレッスンは終わりをつげる。悲しみに満ちた状況で…苦しい過去を見据え、新たな道を歩む人々に光をあてる、温かさとせつなさの物語。
着ぐるみだ。一応、犬ということになる。チョッキーという名もついている。中に入った人は、商店街の映画館でかかる映画タイトルの刷られたチラシを配る。ただそれだけの存在だったー3人が中に入るまでは…滝田徹は、小学生の頃に突然愛犬を失くした。今の仕事に意義を見出せないが、チョッキーの中に入ると守られている気持ちになった。水谷佳菜は、日常生活において「右」を選択する頑なな習慣に縛られていたが、チョッキーの中にいる間は普段なら怖くて出来ないことも出来そうな気がした。兵頭健太は、女に追われている身だったが、チョッキーに入れば逃げてばかりの人生が変わる気がした。3人は、それぞれ自分であることの意味を、ゆっくりと、でもーたしかに見出してゆく。人生の岐路にたった時、進む道を照らしてくれる、温かな物語。
大学を卒業したばかりの僕の新居は、一見普通のアパート・カスミ荘。でも、住人は揃って個性豊かだし、怪現象も続くし…。この土地はキツネに祟られているという噂まであるらしい。一体ここはどうなってるの!?ようこそ、カスミ荘へ。楽しい隣人とたっぷりの不思議があなたを待っています。新潮ミステリー大賞優秀賞受賞作品。
心療内科に通う短大生の相沢ふたばは、治療所で大学生の湯本守に出逢う。守をもっと知りたいと思うふたば。が、彼は姿を消した。看護師に守の行方を訊くが、「そんな名前の患者は知らない」との答えがー壁紙販売会社の社長・藤倉一博は、数年来探し求めていた幻の油絵、“六本の腕のある女”をようやく見つけ出す。だが、まもなくそれが贋作ではとの可能性が浮上しー不動産業の連城美和子は、喫茶店を始める長谷部悠のため、最良の物件を紹介した。だが、かつて喫茶店の店主をしていた悠の父が、三十年も隠していた哀しい出来事を知りー免許の更新に行った御通川進は、警察から「御通川進に行方不明人捜索願が出されている」と知らされる。誰が、何のために自分の名を騙って家出をしたというのか?-ひとつの街で、四つの物語が静かにひそやかに重なり合ってゆきーその先に見えるものとは…鮮やかな色彩の新・日常系ミステリ。第7回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作。