著者 : 松下祥子
二人で過ごしたあの夜。思い出すたび胸がしめつけられる。朝になると彼女はいなかった…。恋人が去って以来、元ミュージシャンのクリックはアイダホで失意の日々を送っていた。バードウォッチングや釣りに心の安らぎを求めながら。ところが飛行機の墜落事故が田舎町の静寂を破り、クリックを再び錯綜した事件の渦中に巻き込んでいった。大自然を背景に失踪人捜しのプロの弧独な闘いを描くセンチメンタル・ハードボイルド。
リンカーンズ・イン法曹学院の弁護士カントリップは、あきれてものも言えなかった。信託の運用をまかされていた一流の受託人グループが、九百万ポンドもの信託財産の相続人の名前を紛失してしまうとは。問題の信託は税金対策のためチャネル諸島に設置されており、相続人の名前は五人の受託人のうち弁護士のグリンしか知らなかった。ところがグリンは、別の信託の会合でケイマン諸島を訪れたさい、謎めいた溺死をとげてしまったのである。あわてた受託人の面々はチャネル諸島で会合を開き、助言を求めてカントリップを招いた。だが、ロンドンに陣取ったテイマー教授と若手弁護士たちがカントリップの送ってくるテレックスで事態の推移を刻一刻と見守るなか、またしても事故が…。信託メンバーをつぎつぎと襲う不可解な死の謎を、テイマー教授がテレックスで送られてくる情報をもとに鮮やかに解き明かす。アンソニー賞最優秀長篇賞受賞作。
一点の曇りもない空を渡り鳥が優雅に旋回する9月のある日、元ミュージシャンのクリックのもとに一人の女が舞い込んだ。5万ドルを持って失踪した夫を探してくれ、と訴える女の美しさに心惹かれて彼は仕事を引き受けた。時おなじくしてマリファナの密売をしていた男が狩猟事故で死亡したことを知り、警察に協力を求めるが保安官は腰を上げようとはしない。やがて事件の関係者が次々と謎の死を遂げ、真実を追うクリックにも魔手が迫る。ロッキーの雄大な自選を舞台に男の孤独な追跡を詩情をこめて謳い上げるアドヴェンチャー・ハードボイルド。
アリソンは戦略家だった。四人目の夫を失くし、娘たちも独り立ちしたいま、親友のプラムとジュインと一緒に老後を楽しく暮らそうと計画を立てたのも彼女だった。だが、いざオレゴンの海岸沿いにある〈ねじれた家〉で共同生活を始めてみると、お互いあらが目立って気に障ることばかり。そして、そんな三人の老女たちの生活を陰から監視する若い男がいた…。男の名はトミー。ねじけた性格でみみっちい悪事を重ねてきた彼は、〈ねじれた家〉に住む老女の一人が、過去に殺人を犯しながら捕まらずにきたのを知っていた。そしていま、それをネタに脅迫しようと、チァンスをうかがっていたのである。相手は女でしかも年寄り。金は簡単に手に入るはずだった。ところが予想に反して相手が開き直ってきたことから、事態は思わぬ方向へ…。孤立した家を舞台に老人と若者の対決を息詰まる緊迫感で描いたMWA新人賞候補の心理サスペンスの秀作。
刑事弁護士となったホープのもとへ、初めて殺人事件の弁護の依頼が飛び込んできた。依頼人は、妻の女流映画監督をナイフで惨殺したとして逮捕された夫のカールトンで、犯行に用いられたナイフが、血染めの彼の衣服と一緒に自宅の庭に埋められているのが発見されていた。ナイフと衣服はどちらも事件の十日前に家から盗まれたものだとカールトンは主張していたが、自宅に押し入るところや庭に何かを埋めているところを隣近所の者に目撃されており、ホープは、映画を見ていたという彼のアリバイの立証に全力を注いだ。だが、ホープにはひとつ気にかかることがあった。被害者の女流監督が秘密主義で撮影していたという映画のフィルムがどこにも見当らないのだ。その頃、ホープの知らないところでは、フィルムを求めて、さまざまな思惑を持った男たちが行動を開始していた…!新たなる展開で巨匠が放つ、殺人童話シリーズ最新作。