著者 : 松下隆志
国家が分裂し断片化した近未来世界。プーチン、トランプ、メルケル、アベなど、尻のような姿をしたG8元首脳のクローン(pb=政治的存在)たち。彼らを治療するサナトリウム院長ドクトル・ガーリンは、アルタイ共和国への核攻撃をきっかけに、北へ向かうことを決意する。身の丈3メートルを超すバイオ巨人、バービー人形のような女神を信奉する〈自由〉という名のアナーキストキャンプ、帝政期ロシアの貴族のように暮らす伯爵一族、カザフスタンから来る麻薬販売キャラバン、多種多様な人間的存在が登場する見世物サーカス、白いオオガラスへの崇拝…。『青い脂』『氷三部作』『吹雪』など、圧倒的な想像力で世界を震撼させてきた作家が描く愛の物語。
舞台は1960年代のモスクワ郊外。殺人を重ねながら魂や死、彼岸の世界を追求する主人公フョードル・ソンノフ。彼がねぐらとするレベジノエ村の共同住宅には、世界を不条理で満たさなければ気がすまない異常性癖をもつ妹クラーワと、フォミチェフ家の人々--父のコーリャ、日がなごみ溜めを漁る長女リーダ、快楽の産物として子どもが生じることが許せない婿パーシャ、自らの疥癬を食す長男ペーチャ、現実を「見てはいない」次女ミーラーーが住まっている。 彼らに「蒙昧主義」を見いだし、自らの思想とのジンテーゼをはかる「形而上派」の面々がここに合流する。グノーシス的神秘思想の持ち主である「形而上的娼婦」アンナを中心に、彼らは「現実」を超越することを志向しながらそれぞれが独自の(超)独我論を展開していく。さらには敬虔なキリスト者であったものの死の間際に鶏になってしまう老人アンドレイ、セクトには属さず独自の道を歩む去勢者ミヘイらも加わり……。 消費社会に覆われた西側でニューエイジが生じたのと時を同じくして、表向き窒息するような社会主義体制下のソ連ロシアのアンダーグラウンドで息づいたもうひとつの精神世界。
人間がゾンビ化する「黒い病」のワクチンを村に届けるため、インテリ地方医師プラトン・イリイチ・ガーリンは吹雪をついて旅に出る。御者セキコフが操るソリ車にはヤマウズラのような小馬50頭がボンネットに収まる。小人の粉屋と豊満な妻、謎の透明物質でできたピラミッド状の麻薬装置、ホログラムを映しだすラジオ、身の丈6メートルにおよぶ巨人、三階建てほどの巨大な馬…吹き荒れる嵐のなか、二人はいつしか暗闇と吹雪の世界に迷いこむ。『青い脂』『氷三部作』『ロマン』『愛』など、現代文学のモンスターと称される作家随一の人気作!!!
美しい三十歳の女性マリーナは、ソルジェニーツィンに傾倒する反体制のピアノ教師。スターリンが死んだ年に生を享け、子ども時代からピアニスト修業を重ねた。父の自殺ののち、祖母に育てられた彼女は、男を愛したことがない。優雅な指としなやかな体をもつ最初の恋人マリヤ、電車に轢かれて真っ二つになったヴィーカ、強盗遊びに大好きだったリューバ、サッフォーの生まれ変わりを自称するニーナ、天使のような顔をした肉感的な唇のサーシャ…。やがて三十番目の恋が訪れたとき、彼女の世界は一変する。『青い脂』とならぶ初期代表作。反体制レズビアンの奔放な性と、旧ソ連の閉塞社会が織りなす奇妙な官能的物語。モスクワ・アンダーグラウンド芸術に参画した若きソローキンによる逆説的ディストピア。
いまから約1000年後、地球全土を支配下に収めた“単一国”では、食事から性行為まで、各人の行動はすべて“時間タブレット”により合理的に管理されている。その国家的偉業となる宇宙船“インテグラル”の建造技師д-503は、古代の風習に傾倒する女I-330に執拗に誘惑され…。
21世紀中葉、世界は分裂し、“新しい中世”が到来する。怪物ソローキンによる予言的書物。“タリバン”襲来後、世界の大国は消滅し、数十もの小国に分裂する。そこに現れたのは、巨人や小人、獣の頭を持つ人間が生活する新たな中世的世界。テルルの釘を頭に打ち込み、願望の世界に浸る人々。帝国と王国、民主と共産、テンプル騎士団とイスラム世界…。散文、詩文、戯曲、日記、童話、書簡など、さまざまな文体で描かれる50の世界。
肉機械が渦巻くー両親を殺害され、みずからも氷のハンマーによって傷を負ったオリガは、犯人たちへの復讐を誓う。一方、光の兄弟たちは、驚異的な心臓の力をもつ少年ゴルンを得る。フィンランドの武器庫に隠された氷のハンマー、中国の秘密工場で働く「死んだ雌犬の仲間たち」、コギャルを愛する殺し屋…最初の指導者ブロの覚醒から七十七年を経て、二万三千人の仲間が「原初の光」のために結集を始める。“氷三部作”怒涛の完結編!!!!
7体の文学クローンの身体に溜まる謎の物質「青脂」。スターリンとヒトラーがヨーロッパを二分する一九五四年のモスクワに、その物体が送りこまれる。巨頭たちによる大争奪戦の後、エロ・グロ・ナンセンスな造語に満ちた驚異の物語は、究極の大団円を迎える。20世紀末に誕生した世界文学の新たな金字塔!!
1908年6月30日、シベリア・ツングース上空で隕石が爆発する。その直後に誕生した大学生のアレクサンドルは、隕石探検隊に誘われて奥地へ向かい、永久凍土の泥沼で氷の塊を発見し覚醒する。彼の真の名はブロ。翌日、同志フェルも目ざめ、二人は光の仲間たちを探し始める。第一次世界大戦、ロシア革命、スターリンによる粛清、第二次世界大戦…物質世界では、肉機械どもが破壊と建設を繰り返す。神話的三部作の「エピソード1」、『氷』に続いて邦訳刊行。
氷の大槌が肉機械を生者に変えた。 妄想と暴力で編まれたソ連/ロシアの20世紀が、カルトの半生としていま鮮やかに蘇る。傑作!--東浩紀 おソローキン!! おそロシア!! ソローキンは氷のハンマーで私の心臓を打った。 ーー池澤春菜
二〇二八年のロシアー。復活した“帝国”で特権を享受する親衛隊士たち。貴族屋敷への押し込み、謎の魚の集団トリップ、不思議な能力をもつ天眼女、ちらつく中国の影、蒸し風呂の儀式…。『青い脂』の怪物が投じる近未来のあやしいヴィジョン。