著者 : 松本健二
この素晴らしい地獄は、あなた方のおかげでないとしたら、いったい誰のおかげでしょうか?科学史にプロメテウスの火をもたらした学者たちの奇妙な人生と、それぞれに訪れた発見/啓示の瞬間…。世界33か国で刊行、チリの新鋭による奇天烈なフィクション!2021年度英国PEN翻訳小説賞、チリ・サンティアゴ市文学賞受賞作。2021年度国際ブッカー賞、全米図書賞(翻訳部門)最終候補作。
数も形も明らかにされていない無数の蛇口からしたたる滴たちの轟音、鳥たちは蛇口の旋律を奏で、犬たちは満月の夜に蛇口の歌を吠える…チベットの奥地にある秘境を旅した思い出を、幻想かつ詩情あふれる文体で描く「蛇口」、ブチ切れるたびに自らの肉体を噛みちぎる猟奇的な自傷行為をくりかえし、自ら命を落としてしまう女の悲劇をユーモラスに語る「マルバ」、迷信深い女と結婚した語り手の男性が、見知らぬ女へと変貌していく妻を前に困惑する「砂糖の家」、ボルヘス風の幻想譚「見えない本の断章」など、1937年のデビュー作『忘れられた旅』から1970年の『夜の日々』までに書かれた5つの短篇小説集をもとにして編んだ日本独自の短篇選集。36篇収録。
1990年代から現在までのチリを舞台に、社会の片隅で生きる女性や子どもの思いと現実をまばゆく描き出す9つの物語。チリの新星による鮮烈なデビュー短篇集!人生の葬り去りたい記憶の瞬き。2015年度チリ芸術批評家協会賞、2016年度サンティアゴ市文学賞受賞作。
69752。ポーランド生まれの祖父の左腕には、色褪せた緑の5桁の数字があったーアウシュヴィッツを生き延び、戦後グアテマラにたどり着いた祖父の物語の謎をめぐる表題作ほか、異色の連作12篇。ラテンアメリカ文学の新世代として国際的な注目を集めるグアテマラ出身の鬼才、初の日本オリジナル短篇集。
几帳面で整頓好きな普通の男の暮らしに突然入ってきたシルビア、そして小鳥を食べる娘サラ…。父娘2人の生活に戸惑う父親の行動心理を写しだした表題作「口のなかの小鳥たち」など、日常空間に見え隠れする幻想と現実を、硬質で簡素な文体で描く15篇。スペイン語圏における新世代幻想文学の旗手による傑作短篇集。
インドから帰還した同性愛者のカメラマンの秘められた記憶、Bと父がアカプルコで過ごした奇妙な夏休み、元サッカー選手が語る、謎のチームメートとの思い出…貴重な自伝的エピソードも含む、「秘密の物語」の数々。心を震わす13の短篇。
チリの首都サンティアゴに住む、作家志望の若者フリオ。学生時代、彼にはエミリアという恋人がいた。彼女と過ごした日々、二人が読んだ本の数々、現在フリオが書く小説「盆栽」の構想、そしてエミリアの死…メタフィクション的かつ斬新な語りと、生と死をめぐる即物的なまでの描写が胸を打つ(『盆栽』)。ある晩、絵画教室から戻らない妻ベロニカを待ちながら、幼い義理の娘ダニエラを寝かしつけるために自作の物語「木々の私生活」を語り聞かせる日曜作家のフリアン。妻は帰ってくるのか、こないのか。不意によみがえる過去の記憶と、彼と娘の未来が、一夜の凝縮した時間から広がっていく(『木々の私生活』)。樹木を共通のモチーフとして、創作と書物、失われた愛、不在と喪失の哀しみを濃密に浮かび上がらせる。深い余韻を残す、珠玉の二篇。