著者 : 松本真一
リチャード・オースティン・フリーマンの『ヘレン・ヴァードンの告白』は、20世紀初めに多数登場したシャーロック・ホームズのライバルたちの中でも最も人気を博した名探偵ソーンダイク博士が登場する長編作品です。若く美しいヘレン・ヴァードンは、ある日、父親の書斎のドア越しに、父とルイス・オトウェイとの激しい口論を耳にします。それは、後に彼女の運命を大きく変えることになる事件へと発展していきます。そんな中、オトウェイが死亡してしまうのです、それも自殺とも他殺とも断定できない状況で。あらゆる状況はヘレンに不利に働いていきます。真相を究明すべく、法医学者ソーンダイク博士の科学的捜査のメスが入ります。オトウェイ死亡の真相が究明されていく物語終盤の検視官とソーンダイク博士との激しい質疑応答は、科学的捜査の実証を重んじるフリーマンの面目躍如。本格ミステリの醍醐味を堪能できる傑作、ついに初邦訳です! ヘレン・ヴァードンの告白/訳者あとがき
ロデリック・アレン警部をフューチャーしたミステリーシリーズの第14作。前半はアレン警部の妻トロイの視点でアンクレトン館の様子と事件の推移が描かれる。トロイは、館主ヘンリー卿の肖像画を描くために、館に滞在しているが、その間にさまざまな悪ふざけが起こり、それは肖像画にも及ぶ。激怒したヘンリー卿は、いたずら好きの孫娘の仕業と思い込み、彼の遺言に重大な変化が起こる。ところが、その後、ヘンリー卿は自室で死体となって発見される。ヘンリー卿の愛猫が事件解決の重要な手がかりになっているところなど、小粒のネタをピリッと効かせていて小気味よい。ヘンリー卿の殺害を企てた犯人の計画には、運命にもてあそばれるような箇所がいくつもあるが、そういった趣向は、シェークスピアの悲劇によく見られるもので、本作は「現代を舞台にした、シェークスピアの悲劇」とも言えるかもしれない。マーシュのベストとの呼び声も高い傑作! 幕が下りて/訳者あとがき
物語は、今なお封建的な風習が色濃く残るイギリスの小さな田舎で発生します。准男爵の称号を持つハロルド卿が「ビック」という言葉を発しながら息を引き取ります。息を引き取る前にハロルド卿は自身の「告白」ともいうべき原稿をカータレット大佐に託し、公表するかどうかを委ねていました。しかし、その数日後、カータレット大佐も死体で発見されます。ボトム橋の近くの川に生息し、地元では“伝説の大物”と呼ばれれているマスは、釣り上げられた後、なぜ移動していたのか? ハロルド卿が発表しようとしていた原稿には何が書かれていのか? 事件を担当するロデリック・アレン警警部は散らばった証拠を拾い集め丹念に解きほぐし、真相にたどり着きます。随所に張り巡らせた伏線、意外性のある真犯人、供述から徐々に犯人を絞り込んでいく緊迫感、まさに英国黄金期の本格ミステリの面白さを堪能できる傑作。 裁きの鱗/訳者あとがき
「もうすぐここで殺人が起こるだろうから…」大農場の女主人の不気味な予言は現実となり、連続殺人へと発展。奇妙な一族に渦巻く複雑な人間関係が醸成した感情と殺意。そしてついに驚くべき真犯人が明かされる。ホームズとワトソンを想起させるチャーミングな素人夫婦探偵「ダゴベルトとジェーン」シリーズの第2弾。本邦初邦訳!物語は、ダゴベルトがジェーンと共に旧知のミランダを訪ねるところから始まります。ミランダは大学で知り合った大農場の跡取り息子ジュリアンと結婚し、経営状態の芳しくなかった農場を見事に立て直していました。大農場には、ジュリアンとミランダ夫妻と彼らの子ども、そしてミランダの妹・ペギーと父親、さらに、ジュリアンの異母兄弟の兄のハルが一緒に暮らしており、ときたま音楽家や、ペギーのボーイフレンドなど多種多様な人々が出入りしていました。そんなある日、滞在中のダゴベルトとジェーンは「もうすぐここで殺人が起こる」とミランダが予言めいたことを言ったとハルから伝えられます。そして、翌朝、ミランダは死体で発見され予言は現実となるのです。さらに、殺人者の魔の手は第二の被害者にも迫っていました。聡明で謎解きが好きな青年ダゴベルトと作家でもある妻のジェーンが、この謎を解き明かしていきます。