著者 : 樋口修吉
対日講話条約の調印された昭和二十六年、聖路加病院にほど近い湊町に運送店の放蕩息子・小原はバー「オハラ」を開業した。空襲で両親を失った岩佐慎二は、小原との丁半博奕で負けて、この店を手伝うことになった。ストリッパー、チンピラ、ダンサー、ジャズシンガー、元豪華客船の楽士…「オハラ」の客はさまざまだが、それぞれの切ない想いを胸にポーカーに人生を賭ける。
永井荷風が『〓東綺譚』の続編として構想しながら、ついに完成しなかった幻の作品『冬扇記』を再現。明治・大正・昭和の吉原遊廓を舞台に、全盛を極めた花魁がおちぶれ、時代にとり残され乞食となってさまよう様を「わたくし」の青春の残骸として思い描く、荷風ファン必読の初めての試み。
浅草花川戸のトンカツ屋に生まれ、歌手となった高橋伸寿(しん)こと高橋三次郎。ジャズの盛衰、忘れえぬ芸人たち、良き江戸情緒-彼の波乱に満ちた半生とそれを彩った戦後の風俗を活写。樋口修吉7年ぶりの書き下ろし力作長編。
ときに愛しくしなやかにたわみまたあるときは、そっけなく誰より粋で昏く激しく甘やかで、いさぎよい。迸る情念をじっと抑えくるりとうしろを向いて去る、こんな愛の形もあった-。セピア色の東京。切なく激しい愛の作品集。
昭和22年夏、横浜。進駐軍の肝入りで、進駐軍家族の子弟や日本の少年たちにスポーツの基礎を教えるサマースクールが開校されることになった。寛太・千春・直行の少年3人組は、闇市を舞台に結束を固め、大人の世界に足を踏み入れながらたくましく生きていたが、サマースクール開校の話を耳にして、あれこれ相談した結果、3人そろって参加を申し込むことにした…。
青春の光と影を鮮烈に描く長編ロマン。ニューヨークでジャズ・ギタリストへの道を歩んでいた俊夫を見舞った不幸なアクシデント。水色の瞳と北欧系のシルバー・ブロンドの髪を持つ娘・モイラとの出会いと愛の日々。競走馬アバター号との関わりから始まった。一人の日本青年の失意と再起の軌跡をたどる意欲作。
運命的な愛の輝き、男の真心と行動の美学を描く処女長編。敗戦後の横浜を舞台に、放蕩とスタッド・ポーカーの勝負に明け暮れた無頼の青春。神戸に移り、脱走米軍将校と組んで始めた酒場での日々。謎を秘めた中国美女・李蘭との出会いに至る異色の恋愛小説。全女性に捧げる恋文として書かれたデビュー作。
伊東卓也は19歳。大学受験に二度失敗してガソリンスタンドで働いている。ある日、祖父の平輔から海外旅行に出かけるので、運転手として同行するように言われる。平輔は、50年も会っていない弟の錬兵をチリのサンチャゴに訪ね、そのあと卓也の両親のいるアトランタをめざそうというのだ。明治生まれの祖父と19歳の孫の旅が始まる。出会いと惜別、老境と夢。人と人との触れ合いを通して、人生のすばらしさを語る長編小説。