著者 : 氷月葵
将軍は九代家重から十代家治へと受け継がれた。来年は家康公百五十回忌の日光社参。その莫大な費用を補うべく、幕府は中山道沿いの各村に過酷な税“増助郷”を迫った。朝鮮通信使来日に続く“酷税”に百姓は決起。御上意といえども抗するしかない。やらなきゃ飢え死にしかない。中山道の各村から鋤鍬を手に十万人を超える百姓が江戸城へと進んでいく。御庭番の宮地加門は…。
千石の旗本・平石家の三男坊圭次郎は、家でも町でも持て余される「厄介」者。奔放な若者だが、喧嘩の仲裁をしたり、弱い者を助けたりと、町方からは好かれる存在だ。ある日、浪人たちと大立ち回りの末、目付に捕まってしまった圭次郎は、ついに勘当されてしまう。玄冶店の一軒家に移り「腕貸し業」で暮らしを立てはじめた圭次郎は、隣家の煮売り屋夫婦、向かいの浪人親子などの人情に助けられ、なんとか糊口をしのいでゆく。だが、そんな彼に一人の侍から妙な依頼が舞い込んだ。とある石問屋とそこにつながる材木石奉行のようすを探れというのだ。不審を抱きつつ探りをはじめた圭次郎だが、その裏には汚職の構図と、ある人物の思惑が浮かび上がってきて…。
奥美濃の郡上藩での百姓一揆は、公儀の評定所へと送られた。将軍家重は御用取次の田沼意次に評定の指揮をとらせるべく五千石を加増、一万石の大名とした。結果、郡上藩主金森兵部は改易、金森と縁を結んでいた若年寄の本多長門守忠央は罷免のうえ領地(遠江の相良)召し上げとなり、相良は意次に与えられた。相良への意次の旅に同行した御庭番宮地加門の見た“武士の一念”。
老中の駕籠行列は、登城の際、走るのが慣例だ。事件が起きたときだけ走れば、人々に異変を知られる。いつも走っていれば、気づかれようがない。そのために走ることが定着し、飛駕籠と呼ばれる。その飛駕籠に六人の百姓衆が駆け込んで直訴した。郡上藩からの者であった。御庭番の加門がそれを目撃していた。加門は本丸中奥の将軍家重の御用取次・田沼意次の部屋を訪ねた。
南町奉行所の巻田禎次郎は、将軍家の菩提所を守る上野の山同心への出向を命じられた。お山の参道を下る禎次郎の背に「盗人だ」という声が上がり、浪人風の侍が箱を抱えて逃げ下ってくる。追うのは参拝の大名家の一行。こうして始まった“事件”の背後には、永年にわたって犬猿の仲の二つの大名家の諍いが…。
将軍家の菩提所を守る上野の山同心への出向を命じられた南町奉行所の巻田禎次郎は、昨日は谷中の感応寺で富くじの富突きがあるので三人の配下と出向いた。翌早朝、不忍池の端で若い男が殺されているのに出くわした。正規の富くじの裏で横行する「陰富」の売人であるらしい。さらに大店の主が首を吊って…。