著者 : 澤田ふじ子
わけあって武士を捨て、高瀬川界隈で評判の居酒屋「尾張屋」の主となった宗因は、かつての朋輩を訪ねて淀に出かけた。その帰途見かけた田圃を耕す初老の男が、四国遍路に出かけたはずの塩問屋播磨屋の主であることに気づき問いただすことに。播磨屋が語り始めた予想外のいきさつは…。高瀬川に集う市井の人々の哀歓と人生の機微を描いて深い感動を呼ぶ珠玉の連作集。
突如現れた正体不明の五人組の暴漢を自慢の剣技で一蹴した菊太郎。その傍から、一味は公事宿「鯉屋」が密かに再調査を始めた強盗殺人事件に関わる者ではないかと思い至る。すでに下手人とされた男は打首になり、落着したはずの事件の裏には、いったい何が隠されているのか?表題作ほか全六編を収録。人気シリーズ、ここに堂々完結!
内憂外患の波が押し寄せる、京の都。幕府の存続を図るため、幕閣は尊王思想を増長させる『日本書紀』を秘かに焼き尽くす計画を進めていた。しかし、草莽の志を抱く植松頼助・猿投十四郎たち一団は、それを阻止すべく立ち上がる。さらに、人々に勤王の志を説くため、天皇の功績を摺り物にして頒布することに。尊王の志士たちと幕府隠密たちとの熾烈な戦いがはじまったー。
神書頒布を目論む植松頼助・猿投十四郎たち一団は、多くの同志たちの協力を得て、少しずつ頒布地域を広げていた。しかし幕府の隠密たちも容赦なく、彼らを追い詰めていく。凄惨な戦いに命を落とす者たち、そしてかつての仲間と相対することになった者が抱える苦悩…。それでも王政復古を願う、熱い思いの行方はー。構想十年、国とは何か、政とは何かをあらためて問う傑作時代小説。
佐七と彦次郎はお紀勢を争っていたが、彦次郎が行方不明となり、佐七とお紀勢が結婚する。ある日、二人に生まれた子の修平が誘拐され、すぐ戻ってくる事件が起きる。その日から夫婦の間に見えない亀裂が…(表題作)。欲に流される者、人生を立て直そうと必死にあがく者。心根を惑わす骨董品をめぐり、深く哀しい人間の“業”を静謐に味わい深く描く、珠玉の短編集。
父は盗賊に惨殺され、母は妖しい笑みを浮かべながら盗賊とともに家を飛び出した…。お琴は、七歳のときの悪夢のような出来事を今でも忘れられずにいる。尾張屋の主・宗因たちが招かれたある祝言に、角倉屋敷の台所働きをしているお琴も手伝いにいくことに。そんな晴れやかな夜、怪しい足音が…。悪夢から十一年後、明らかになる事件の真相とは一体ー。大好評の連作シリーズ第八弾!
鋳掛け屋の太兵衛の葬式に東町奉行所与力がやってきた。かつて太兵衛は奉行所の付同心をしていたという。ある捕物の夜、盗人の隠れ家へ踏み込もうとした時、螢捕りにきた息子の仁助が太兵衛に声をかけ、捕物は失敗に終わった。太兵衛は出仕に及ばずということになり鋳掛け屋となったが、町の情報を番屋に知らせていたのだ。曳き人足となった仁助がとった行動は…。連作シリーズ。
旅篭の柏屋に奇妙な客が…父の仇を追う十四歳の上沼大炊助・加奈母子と下僕の安五郎だった。加奈は労咳で寝込み、大炊助の剣の腕も今一つ。安五郎は積荷人足として働いていたが、路銀にもこと欠き、博打で稼ごうと賭場へ向った。安五郎は賽の目をよむ天賦の才があり、その日二十五両もの大金を稼いだのだが…。人情居酒屋の主・宗因が考えついた妙案とは!?人気シリーズ第六弾!
菊太郎の恋人・お信が娘のお清を連れ、神妙な面持ちで「鯉屋」へやってきた。源十郎を筆頭に店の者たちは、すわ別れ話かと気を回すが、お清の進路の相談だった。女だてらに公事師になりたいのだという。その申し出を源十郎は受け入れたが…。大人への階段を上る娘の姿を心温まる筆致で描く表題作ほか全六編。人気シリーズ、待望の第二十一集!
悪評高い焼き物問屋の彦市郎と、町中で一触即発の状態にあった明珠。彼は大寺の医僧を務めていたが、看病していた高僧が死んだため、更に蘭方をもって接していたという理不尽な理由で寺を追い出されたというのだ。「尾張屋」の主・宗因らの勧めで町医となったが、彦市郎に薬草の煎じ薬を飲ませたことから事態は思わぬ展開を…。高瀬川に集う人々の歓びと哀しみを綴る傑作シリーズ!
高瀬船の船頭弥助の子・弥市は、人攫いと噂されている謎の男が、篠山藩の京屋敷に入って行くのを目撃した。ちょうど、居酒屋・尾張屋には、篠山藩士と思われる侍たちが夜毎押しかけ、不穏な空気が漂っていたのだ。主の宗因は、彼らが人足・藤蔵の行方を探っているのではないかと疑いをもつ…。謎の男と尾張屋に集まる侍たちとの間には何があるのか?好評連作シリーズ第四弾!
故郷の川にかかる粗末な丸太橋をかけかえようと、長らく托鉢を続ける僧の普照。苦労の末に集めた金は十両。が、その金をならず者たちに奪われてしまったのだ。失意の普照を助けようと、高瀬川界隈で評判の居酒屋「尾張屋」の主人・宗因が一肌脱ぐことに。大店の主たちが金を出そうとするが、本人は申し出を拒否するのだった!?人間の気高さと愚かしさ…深い感動を呼ぶ傑作シリーズ!
京の料理茶屋「末広屋」に年季奉公にでることになった百姓の娘、お菊。寂しさと不安のなか、有名料理屋の息子の才次郎、その腰巾着の市松、武家の息子の小仲太、生真面目な又七ら同輩とともに、日々懸命に働く。お菊はやがて、又七と心を通わせるようになるが…。人生に立ちはだかる困難や失敗にめげず、未来に向かって真っ直ぐに生きる若者の姿が心を打つ傑作時代小説。
公金横領の汚名を晴らし、高瀬川のほとりに居酒屋・尾張屋を開いた元尾張藩士の宗因。店の評判もよく繁盛していた。ろくに食事も与えられず、病身の母親に暴力を振るい続ける義父をひょんなことから過って殺してしまった健気な少年・芳松。日ごろの芳松をよく知る宗因は、過去の恩讐をかなぐり捨て尾張藩を頼って一計を案じた!?人情時代小説の傑作シリーズ!
夕刻になるときまって茶屋を訪れ、団子三皿を平らげて上機嫌に帰る道服姿の老人。そのおかげで店の評判は高まった。ある筆屋の主が、老人は茶湯者・千宗旦に化けた狐だと考え、儲け話を企むが…(表題作)。茶器、書画、花、茶室など、茶湯にまつわる世界を12編の物語に凝縮し、宿業を背負って生きる人間の哀しさや愚かさをしみじみと描いた、情緒溢れる傑作短編集。
与惣次行きつけの居酒屋に忘れられた風呂敷包み。中には位牌と骨壼、それに十両もの金が。最近馴染みになった老人・吉助が置いていったのだ。経緯を聞いた宗徳は与惣次を連れて吉助の住居を訪れたが、すでに引き払われていた。長屋の住人の話では、一緒に暮らしていた女が流行病で亡くなったという。そのとき突然、紀州犬の豪の吠え声が響いた。見ると袴姿の若侍が逃げてゆく背中が…。
石屋に見習い奉公に出ていた十六歳の市助は、日頃から主や兄弟子による苛めを受けていた。そしてある日、ひどい折檻により、命を落としてしまう。主は事件を隠蔽しようと事故と偽るが、市助の義父はそこに悪事の匂いを嗅ぎ取り、よからぬ企みを抱く…。死者の声なき声を聞き、足引き寺の四人と一匹が立ち上がった!好評シリーズ第八弾。