著者 : 生島遼一
ナポレオン没落後、武勲による立身の望みを失った貧しい青年ジュリアン・ソレルが、僧侶階級に身を投じ、その才智と美貌とで貴族階級に食い入って、野望のためにいかに戦いそして恋したか。率直で力強い性格をもったジュリアンという青年像を創出し、恋愛心理の複雑な葛藤を描ききったフランス心理小説の最高峰。
副題「一八三〇年年代記」が示しているように、この小説は一平民青年ジュリアン・ソレルの野心をとおして、貴族・僧侶・ブルジョアジーの三者がしのぎをけずる七月革命前夜の反動的で陰鬱なフランス政界と社会を、痛烈な諷刺をこめて描き出した社会小説でもある。スタンダール(一七八三ー一八四二)の鋭い歴史感覚は時代の精神をみごとにとらえた。
アルヌー夫人への満たされぬ思慕をますますつのらせつつも、フレデリックは官能的なロザネットとの交渉を深めてゆく。そして2月革命。歴史は大きく揺れ動き、政治の渦は彼らをも巻きこむ。フローベール(1821-80)の円熟した手腕の冴えが見事に発揮されたこの長篇は、写実主義が生んだ最も完璧な作品と称えられている。
19世紀も半ば、2月革命に沸く動乱のパリを舞台に多感な青年フレデリックの精神史を描く。小説に描かれた最も美しい女性像の一人といわれるアルヌー夫人への主人公の思慕を縦糸に、官能的な恋、打算的な恋、様々な人間像や事件が交錯してゆく。ここには、歴史の流れと人間の精神の流れが、見事に融合させられている。
はしがき 序 一 ダルタニャン老人の三つの贈物 二 トレヴィル邸の控えの間 三 初の謁見 四 アトスの肩、ポルトスの吊帯、アラミスのハンカチ 五 近衛の銃士と枢機官の護衛士 六 ルイ十三世 七 銃士の内証 八 宮廷の密謀 九 ダルタニャン片鱗をあらわす 一〇 十七世紀の張り込み所 一一 事件はもつれる 一二 バッキンガム公ジョルジュ・ヴィリエ 一三 ボナシュウ氏 一四 マンで見た男 一五 法官と武人 一六 司法卿セギエ、かつてせしごとく、また鐘を鳴らさんと紐を探すこと 一七 ボナシュウの家 一八 恋人と夫 一九 作 戦 二〇 旅 二一 ウィンテル伯爵夫人 二二 舞 踏 会 二三 逢 引 二四 離 れ 屋 二五 ポルトス 二六 アラミスの論文 二七 アトスの妻 二八 帰 還 二九 身仕度の苦心 三〇 ミレディー 訳 注
三一 イギリス人とフランス人 三二 代訴人宅の午餐 三三 侍女と奥方 三四 アラミスとポルトスの身仕度の話 三五 夜はすべての猫が灰色になる 三六 復讐の夢 三七 ミレディーの秘密 三八 アトスが一歩も運ばず身仕度をしとげた話 三九 おもかげ 四〇 恐ろしい幻影 四一 ラ・ロシェルの攻囲 四二 アンジューの葡萄酒 四三 赤鳩舎亭 四四 煖炉管の効用 四五 夫婦の場合 四六 サン=ジェルヴェー稜堡 四七 銃士の密談 四八 家庭の事情 四九 宿 命 五〇 兄妹の会談 五一 士 官 五二 囚われの第一日 五三 囚われの二日目 五四 囚われの三日目 五五 囚われの四日目 五六 囚われの五日目 五七 古典悲劇の手法 五八 脱 走 五九 一六二八年八月二十三日のポーツマスの出来事 六〇 フランスでは 六一 ベテューヌのカルメル派尼僧院 六二 二種の悪魔 六三 水 滴 六四 赤外套の男 六五 裁 判 六六 処 刑 結 末 後 の 話 解 説 訳 注
城の牢に幽閉されたファブリスをめぐってパルム宮廷の政争はさらに激しく展開する。才気と美に輝く叔母サンセヴェリナの情熱、モスカ伯爵の精妙な政治学、政敵コンチ将軍の娘クレリアの可憐な恋。個性的な多くの副人物を配し、19世紀前半、動乱期イタリアの小公国パルムを描いて「広範な社会的真実」を見事に浮かび上がらせた傑作。
優雅で美しく無垢な青年ファブリス。ナポレオン崇拝のあまりワァテルローの戦いに飛び出してゆく彼の衝動的行動から物語は始まり、波瀾万丈の展開をみせる。恋、政争、冒険、生と死。『赤と黒』と並ぶこのスタンダール(1783-1842)の代表作は、一生のあらゆる段階で読み返されるに値し、そのたびに味わいを増すとまで讃えられる。
この小説は一平民青年ジュリアン・ソレルの野心をとおして、貴族・僧侶・ブルジョアジーの三者がしのぎをけずる7月革命前夜の反動的で陰鬱なフランス政界と社会を、痛烈な諷刺をこめて描き出した社会小説である。
ナポレオン没落後、武勲による立身の望みを失った貧しい青年ジュリアン・ソレルが、僧侶階級に身を投じ、その才智と美貌とで貴族階級に食い入って、野望のためにいかに戦いそして恋したか。率直で力強い性格をもったジュリアンという青年像を創出し、恋愛心理の複雑な葛藤を描ききったフランス心理小説の最高峰。