著者 : 田中兆子
私の趣味は、男性との肉体を伴ったかりそめの恋。それを、ひそかに「花摘み」と呼んでいるー。出版社に勤めるかたわら茶道を嗜む愉里子は、一見地味な五十一歳の独身女性。だが人生を折り返した今、「今日が一番若い」と日々を謳歌するように花摘みを愉しんでいた。そんな愉里子の前に初めて、恋の終わりを怖れさせる男が現れた。茶の湯の粋人、七十歳の万江島だ。だが彼には、ある秘密があった…。自分の心と身体を偽らない女たちの姿と、その連帯を描く。赤裸々にして切実な、セクシュアリティをめぐる物語。
下町の駄菓子工場の女社長・万純(30)は、新事業もうまくいかず、恋人もおらず、愚痴を言えるのは幼なじみのマイナーサッカー選手の翔太(28)だけ。母から結婚を急かされるなか、翔太からプロポーズをされるが(「女社長の結婚」)。トランスジェンダー(MtF)の範之(27)は、実家の老舗旅館に戻って仲居の修業中。しかし女性の格好をする範之を、母である女将がなかなか認めてくれず(「若女将になりたい!」)。障碍者を多く雇用する会社に中途入社した翼(25)。同じ部署の障碍をもつ伊藤さんとどうコミュニケーションを取ってよいかわからなかったが(「わが社のマニュアル」)。働き方、暮らし方、生き方に惑う現代人に贈る、6つの“あと継ぎ”物語。
「誰かのため」でなく、「自分のため」に性と向き合う女たち。『甘いお菓子は食べません』で圧倒的支持を得た著者が魅せる、7人7様の女のしあわせ。たまらなく愛しくて、涙が出るほど可笑しくて、やがて切ない官能作品集。
2092年。新型インフルエンザの蔓延により10代から20代女性の85%が喪われた日本では、深刻な人口問題を解決するため、国民投票により“徴産制”の施行が可決された。農家の一人息子・ショウマ、エリート官僚のハルト、妻の死から立ち直れないタケル、「仕事のできない夫」キミユキ、そして、引きこもりだったイズミ…。性転換を義務化した“徴産制”に従事した5人の男たち。苦悩と葛藤の果てに手にした「生きる意味」とはー。
頼む…僕はもうセックスしたくないんだ。仲の良い夫から突然告げられた妻の動揺。“土下座婚活”が功を奏して知り合った男性に、会って3時間でプロポーズされた女の迷い。念入りに掃除をし、息子に手作りのおやつを欠かさない主婦が抱える秘密。諦めきれない悟れない、けれど若さはもう去った。中途半端な“40代”をもがきながら生きる、私たちの物語。心に深く刻み込まれる6編。第10回R-18文学賞大賞受賞作。第2回フラウ文芸大賞新人賞受賞。