著者 : 白須清美
深夜一時、ジョン・サンダース医師は研究室を閉めた。今週中に、ある毒殺事件のための報告書を提出しなければならず、遅くまで顕微鏡を覗いていたのだ。頭をすっきりさせて帰ろうと、小雨の降りはじめた道を歩いていたサンダースは、十八世紀風の赤煉瓦造りの家のすぐ外に立つ街灯のそばに一人の若い女性がたたずみ、自分のことを見ているのに気づいた。ガス灯に照らされ、ただならぬ雰囲気を漂わせた女性は、サンダースを呼び止め、この建物の窓に明かりが灯った部屋に一緒に行ってほしいと懇願する。この女性に請われるまま、建物に入り、部屋に足を踏み入れたサンダースが目にしたのは、細長い食卓の周りを物いわぬまま囲み、蝋人形か剥製のように座った四人の人間であった。いずれも麻酔性毒物を飲んでいる症状が見られ、そのうちの三人にはまだ息はあったが、この部屋の住人であるフェリックス・ヘイは細身の刃で背中から刺されてすでに事切れていた。そして奇妙なことに、息のある三人のポケットやハンドバッグには、四つの時計、目覚まし時計のベルの仕掛け、凸レンズ、生石灰と燐の瓶などの品々が入っていた。事件の捜査を開始したロンドン警視庁のハンフリー・マスターズ首席警部は、奇妙な事件の解明のため、ヘンリー・メリヴェール卿を呼び寄せる。
伝説の「さまよえるユダヤ人」を名乗るアハスヴェルが主宰する教団「光の子ら」を糾弾すべく準備を進めていたカルト宗教の研究者ウルフ・ハリガンは、ひょんなことから知り合った作家志望の青年マット・ダンカンの協力を得、二人は「光の寺院」で開かれる教団の集会に参加する。その集会の場で、全身に黄色い僧衣をまとった教祖アハスヴェルは、信者たちとともに「ナイン・タイムズ・ナイン」の呪いを唱え、ウルフの死を予言する。その翌日、ハリガン家の家族とクロッケー場でゲームに興じていたマットがふとウルフのいる書斎を見ると、ウルフの机に身をかがめている黄色い僧衣を着た人物の姿が目に入る。窓は施錠されており、邸内の扉から書斎に入ろうとするものの、やはり鍵がかかっていて中に入れない。再び外に出て窓から中をのぞくと、ウルフは顔面を撃たれて床に倒れており、存在したはずの黄色い衣の人物は消え失せていた…。この不可解な密室殺人の謎に直面したダンカンは、探偵小説嫌いのマーシャル警部補と共に「密室派の巨匠」ジョン・ディクスン・カーの“密室講義”を参照しながら推理・検討をするのだが、なんと“密室講義”のどの分類にも当て嵌まらないことが判明する。困惑する捜査陣を前に、難事件の経緯を知った尼僧アーシュラは、真相究明のために静かに祈りを捧げるのだった…。果たして異色の尼僧探偵の祈りが通じ、神をも畏れぬ密室犯罪の真相が看破されるのだろうか!?ジョン・ディクスン・カーに捧げられ、エドワード・D・ホックが主催する歴代密室ミステリ・ベストテンにも選出された、都市伝説的密室ミステリが新訳によって半世紀の時を経てここに甦る!
グレート・マーリニが経営する“奇術の店”に、ひとりの女性がやってきた。彼女は「首のない女」の奇術に使う装置をどうしても買いたいという。女性の謎めいた行動に好奇心をかき立てられたマーリニは、友人の作家ロス・ハートとともに彼女のあとを追う。やがて、大ハンナム合同サーカスへとたどり着いたふたりを待っていたのは、団長のハンナム少佐の事故死の知らせだった。だが、その死には不審なところがあった…。少佐の死は事故か殺人か。「首のない女」とは誰なのか。呼び込みの口上、綱渡りに空中ブランコ、剣呑みに透視術にいかさまトランプー華やかなサーカスの裏で渦巻く策謀に、奇術師探偵マーリニが挑み、窮地に立たされる。奇術師作家ロースンの仕掛ける大胆な詐術に驚愕せよ!不可能犯罪の巨匠ロースンの最高傑作が、今ここに新訳でよみがえる!
高層ビルの執務室で男が死体となって見つかり直後、ニューヨークを大停電が襲うー現場にたどり着いた隻眼の探偵はさまざまな証言の中から犯人を追い詰めていく。屈指のクイーン研究家がセレクトした珠玉のミステリ!
その日のキツネ狩りの「獲物」は頭部のない若い女の死体だった。悲劇は連鎖する。狩猟用の愛馬が殺され、「何か」を知ってしまったらしい女性も命を奪われてしまう。陰惨な事件の解決のために乗りだしたドクター・ウェストレイク。小さな町の複雑な男女関係と資産問題が真相を遠ざけてしまうのだが…。ドクター・ウェストレイク・シリーズ第1作!
愛妻アイリスが母親に付き添ってジャマイカへ発った日、ピーター・ダルースはナニー・オードウェイと知り合った。パーティーで所在なげにしていた二十歳の娘は作家修業中だという。ピーターは父親めいた親切心を発揮して執筆の便宜を図ってやる。やがて待ちに待ったアイリスの帰国、喜び勇んで迎えに行くピーターは、とてつもない災難に見舞われることを知る由もないのだった…。
時勢ゆえ戦争に駆り出され、海の男になったピーター・ダルース。久方ぶりの休暇を愛妻アイリスと水入らずで、と思いきや好事魔多し。宿の手配に右往左往、大事な軍服を盗まれ、あげく殺人の容疑者に仕立てられる始末。軍務復帰まで三十時間、警察に引っ張られるなんて冗談じゃない。私立探偵コンビの助力を得て逃避行と真相究明が始まり…。謎が謎を呼ぶ、パズルシリーズ第三作。
出色の脚本を得て名プロデューサー復活の狼煙を上げるはずが、誤算続きのピーター・ダルース。忌まわしい噂のある劇場をあてがわれ、難点だらけの俳優陣を鼓舞してリハーサルを始めたが、無類漢の乱入に振り回されたあげく死者まで出る仕儀と相成った。真相究明か興行中止の憂き目に遭うか、初日は目前に迫っている!謎解きとサスペンスの興趣に満ちた、パズルシリーズ第二作。
真夜中。時計の針が十二時を過ぎた瞬間、病弱な青年アンバリーは無事に二十一歳となり、莫大な遺産を正式に相続した。その翌朝、滞在していた避暑地のホテル近くの断崖の下で、アンバリーの死体が発見される。ホテルを出て歩き回るうちに、持病の発作を起こして転落したらしい。だが病弱な青年が、なぜ真夜中に外へ?さらには、彼が書いていたはずの遺言状も消え失せていた。単なる事故か、それとも…ホテルに滞在中だった名探偵ヘンリー・ガーマジの頭脳が回転しはじめた!アメリカ・ミステリ界で絶大なる人気を誇った女史のデビュー作。