著者 : 皆川孝子
会社に勤めながら独りで息子を育てるケイトは目の前の顧客に愕然とした。第5代ウィンダム男爵ジュリアン。最初で最後の恋人。18歳の夏、ケイトはイギリスを旅行中に彼と恋に落ちたが、男爵位を継ぐジュリアンに彼女はふさわしくなく、彼の母親から本人も別れを望んでいると告げられ、失意のなか帰国した。彼の子を身ごもっているとわかったのは、2カ月後のことだった…。きっと今頃ジュリアンは貴族令嬢と結婚し、父親になっているでしょう。ときどきそんな思いに胸を痛めていたが、まさか今、再会するなんて!ああ、片時も忘れたことのない、愛しいジュリアン。だが彼はあの日のままの屈託のない笑みで囁いた。「はじめまして」
厳格な学校から、半年ぶりに帰郷したキャスリンは、年の離れた義兄ブレイクの姿が見当たらないことにほっとした。早くに両親を失い養女となった彼女を、ずっと見守ってくれた義兄。でも、最近のブレイクはかたくなに男女交際を禁じ、キャスリンの行動を制限しようとするのだ。わたしはもう二十歳なのに。だがパーティの日、ちょうど出張から戻ったブレイクに、ドレスがセクシーすぎると厳しく叱責されてしまう。思わず反発したキャスリンはそのとき想像すらしなかったーわずか数時間後、ブレイクに荒々しく唇を重ねられ、衝撃と興奮に身をこわばらせることになろうとは。極上義兄妹ロマンス!愛情深い兄だったはずの男性との間に、突如燃え上がる情熱の炎。一途で無垢な愛。
生まれつき不思議な予知能力を持ち、そのせいで周囲から敬遠されてきたローレルは、都会を離れて亡き祖母が遺してくれた屋敷にひとり移り住むことに。ルイジアナの深い森に囲まれたその美しい屋敷は、地元では“ミモザの園”と呼ばれ愛されていた。ようやく自分の居場所を見つけたローレルだが、ある日そこで思いがけない出会いを果たす。目の前に、毎晩ローレルの夢に出てくる男性ー存在するはずのない空想の世界の恋人が現れたのだ。呆然とするローレルに、彼も戸惑いを隠せない様子で「会いたかったよ」とささやき…。
第五代ウィンダム男爵ジュリアン・アシュトン・カーライル。忘れもしない、ケイトの最初で最後の恋人だ。18歳だった。純粋な愛はすぐに二人を引き裂く悪意に巻き込まれ、身分違いだと思い知らされたケイトは、血を吐く思いで諦めた。きっと彼はもう伯爵令嬢と結婚し、子供もいるにちがいない…。つきまとう過去の痛みを、時は決して癒やしてくれない。ある朝、出社したケイトは言葉を失う。新しい顧客を紹介され、目の前に立っていたのはージュリアンだった。彼は屈託のない笑みを浮かべ、「はじめまして」と囁いた。
旅行中に命を落とした双子の兄の遺言が、エドワード・オールコットの運命を一変させた。グレイリング伯爵の地位を継ぐばかりか、帰国後は兄になりすまして、幼な妻ジュリアとの結婚生活を続けなければならなくなったのだ。兄とは正反対に放蕩の限りを尽くしてきたエドワードは、数年前のある“過ち”のせいで、彼女から毛嫌いされている。4カ月ぶりに夫と再会したジュリアは、幸いにも瓜二つのエドワードを夫と信じて疑わなかったが、彼を愛情深く見つめる“妻”の隣で眠ることに、エドワードは次第に耐えきれなくなっていた。
養子のメレディスがようやく見つけた実の母は、親子の名乗りをあげてまもなく、重い病で帰らぬ人となった。だが、娘の存在を知らない実の父がまだ健在だとわかると、彼女はルーツを探るため、素性を隠して父の住む地に求職広告を出した。首尾よく、さる屋敷で雇われることになるが、そこにはメレディスの心をかき乱す男性が暮らしていた。名をガレスというその人は、彼女の血の繋がらない兄だったのだ!ガレスは彼女の亡き母を嫌い、先の訃報にも安堵したと言い放つ。人知れずメレディスは傷つき、腹を立てたー義兄のひどい言葉に。そして、そんな彼を憎からず思ってしまう自分に。
18歳の夏、父は死刑執行された。一部始終を目の当たりにしたケイトリンは、自白を強要された人々を冤罪から救うために法精神科医となった。ある日、父の弁護士だった人物から協力を頼まれ、殺人事件の容疑者クレイマーと面談する。無実を訴えてはいるが彼が異常者であることは間違いない。依頼を断ろうとした矢先、眼前でクレイマーが殺された。最期に謎めいた台詞を残してー。
体育館で合唱指導をしていた音楽教師のシーリアは、突如歓声をあげた生徒たちの視線の先に目を投じた。マルコム…?そこには、ずっと忘れられなかった初恋の男性の姿があった。18年前、彼女が妊娠に気づいた直後、彼は麻薬組織への関与を疑われ町から姿を消した。赤ちゃんを二人で育てる夢は儚く消え、その後今日まで、マルコムが戻ることはなかった。今や世界的ミュージシャンとなり、巨万の富を得た彼は洗練され、大人の男性の自信に満ちあふれている。そんな彼が、なぜ私に会いに来たの?とまどうシーリアに、彼は言った。ぼくと一緒に世界ツアーに同行しないか、と。
ロンドンで発生した猟奇殺人事件。被害者はいずれも、レイプ容疑を持つ男性。現場には必ず、一輪の黒い蘭の花が残され、犯行の前日には、聖書の引用とともに被害者の死亡届が新聞に送られていた。敏腕ジャーナリストのベス・ギャンブルは自ら事件捜査のおとりとなるが、いつしか、レイプ犯殺害の容疑をかけられてしまう。無実を証明するため、そして真犯人を挙げるため、ベスの孤独な闘いが始まる。
借金に追われるしがない画商ウィル・サムナーにある日、願ってもない儲け話が舞い込んできた。癌に冒され余命いくばくもないフロリダの大富豪が、その超一流の絵画コレクションを売却してほしいというのだ。ところが、鑑定を始めるや大富豪の妻が何者かに殺され、「ファイルをよこせ」という脅迫が。ファイルとは一体何?それに大富豪はなぜかフロリダ州知事を憎んでいた。謎が謎を呼ぶ名画鑑定の行方はいかに。