著者 : 立花英裕
原爆が炸裂した朝、一組の若い男女が広島の街で愛し合っている。-文化混淆の街モントリオールを舞台にした日本女性と黒人男性との同棲生活。人種、エロス、そして死を鮮烈にスケッチする、俳句的ポエジー。破天荒な話題作を続々と発表し、アカデミー・フランセーズ会員にも選ばれたハイチ出身のケベック在住作家による邦訳最新刊。
古くから伝わる“少女と魚の悲恋”の逸話をなぞるように絶世の美女の叔母に惹かれゆく少年を捉えた表題作をはじめ、規範や差別、偏見に苦悶するなかで邂逅するエロスを晴れやかに描く、現代ハイチ文学の傑作短編集。
編集者に督促され、訪れたこともない国名を掲げた新作の構想を口走った「私」のもとに、次々と引き寄せられる「日本」との関わりー国籍や文学ジャンルを越境し、しなやかでユーモアあふれる箴言に満ちた作品で読者を魅了する著者の、アイデンティティの根源を問う話題作。昨年アカデミー・フランセーズに選出され、今、世界的に注目を集める作家の最新邦訳。
“かわいそうなティモニーに疲れたら、陽気な歌に移っていく。そして、夜の続きのために私たちは乾杯する。壊れたグラスも壊れてないグラスも一緒に。過ぎ去ったつらい日々と行方のしれないこれからの日々のために”ハイチを逃れたどり着いたマンハッタン。苛烈な過去と未来への不安を抱えながらも、前を向いて生きていこうとする3人の女学生のいまを生き生きと描いたエドウィージ・ダンティカの「葬送歌手」。“彼女は彼を殺すだろう。それは彼女の名がアンナだというのと同じくらいに間違いのないことだ。彼を殺して、彼女自身の人生がようやく始まる”結婚以来、暴君として君臨してきた、いまや寝たきりの夫の殺害を決意したアンナ。やがて訪れる決行の朝にアンナを待ち受けているもの、果たしてそれはーケトリ・マルスの「アンナと海…」。古くからの因習がひきおこす惨劇を静謐な筆致で綴った表題作をはじめ、カリブ海に浮かぶ小国ハイチに生まれた代表的現役作家9人による、透明なイメージに満たされた粒揃いの短篇集。