著者 : 篠原勝之
「KUMAさんの言葉の内側には 命へのぶ厚い歓喜がへばりついている」 --井浦新さん(俳優)推薦! 甲斐駒ヶ岳の山岳地帯に作業場をかまえ、鉄のゲージツ家として活動を続けてきたオレ。後期高齢者となった今は、畑に野菜を作って猿や鹿との攻防を繰り広げ、奈良東大寺から蓮の根をわけてもらい、美しい花を咲かせるのに熱中する日々だ。 そんな作業場へ、サングラスを掛けたスキンヘッドの男たちがやってきた。 「ああ、そうか。マロの一味だな」 「はい、弟子の舞踏者です」 目をやると、テンガロンハットに黒い革のコートをまとった「中央線の魔王」が、桜の木に寄りかかっていた。オレの作品のガラスの柱を舞台に使わせてほしいと言うのだ。 「クマ、一緒に踊るか」 「オレが? マロと?」 子どもの頃から歌も踊りも苦手なオレだが、マロに「ダイジョーブ、俺が演出するんだ。素直な躰ひとつ、お持ちいただけるだけでよろしいので」とまで言われて怯むのは「私に生きる才能は残っておりません」と白旗を掲げるようなものだ。・・・ こうして白塗りのメイクで、マロが率いる舞踏集団の初舞台を踏む「戯れの魔王」。 オッカサンの死を看取り、蓮の花が開いて散るまでを見守る「蓮葬り」。 毎朝、遥拝してきた甲斐駒ヶ岳の奉仕登山にいどむ「アマテラスの踵」。 山岳の作業場に迷い込んだ瀕死の仔猫を助ける「ささらほーさら」。 泉鏡花文学賞受賞『骨風』のKUMAさん、生きる実感に満ちあふれた最新小説集。
十七歳、家出少年の人生は、挫折、家族解散、借金返済の自転車操業。 愛猫、ビンボー暮らし、ゲージツ、室蘭、深沢七郎、モンゴル草原、青函連絡船、 編み物、ベネチア、父親、どぶろく、スキンヘッド、弟、甲斐駒ケ岳…… 老いてなお逃げ続ける脚力で描き切った、崖っぷちの連作集! 文芸誌掲載作から名短篇を集めた『文学2014』アンソロジーに選ばれた 表題作。鉄と戯れ、ゲージツする日々、蜂に刺され鹿が迷いこむ山の生活。 家族と己の生と死を、タフに見つめつづける全8作。
かつて捕鯨で栄えた、入り江の奥の小さな港町。僕は母さんの実家のミカン山で暮らすことになり、生まれ育ったこの町を離れた。一年後の夏、僕は父さんとジイチャン、後ろ足を失くした犬のコロが暮らす故郷の町を目指し、ひとり相棒のマウンテンバイクUMIのペダルを漕ぎ出す。小学館児童出版文化賞受賞作。