著者 : 米川正夫
19世紀、酷暑のペテルブルグ。戸棚のような小部屋で鬱々と暮らす貧乏学生ラスコーリニコフは、ある夕暮れ時、高利貸しの老婆を斧で叩き殺す。「非凡人は凡人の法律や道徳を踏み越えてもいい」という論理に基づく凶行だったが、犯行の後、激しい苦悶がのしかかるー。人間存在の意味を問う壮大な物語の幕開け。
次第に追いつめられていくラスコーリニコフの前に現れた年若き娼婦ソーニャ。彼女の清らかな魂に触れ、物語は新たな天地へと向かいはじめる。息もつかせぬ展開、緊迫した心理描写、個性豊かな人々が織りなす濃密な人間模様に彩られた世界最高峰の文学を、ロシア文学の大家、米川正夫の名訳でお届けする。
この作品においてドストエーフスキイは人間の魂を徹底的に悪と反逆と破壊の角度から検討し解剖しつくした。聖書のルカ伝に出てくる、悪霊にとりつかれて湖に飛びこみ溺死したという豚の群れさながらに、無政府主義や無神論に走り秘密結社を組織した青年たちは、革命を企てながらみずからを滅ぼしてゆく…
非凡な頭脳と繊細な感受性そして超人的な体力に恵まれながら、思想も感情も分裂し、悪徳と虚無に生きる呪われた男スタヴローギンを主人公に、狂言的革命主義者ピョートル、ロシア正教に根ざす民族主義者シャートフ、徹底した反宗教的個人主義に生きるキリーロフら、革命思想に憑かれた人間たちの破滅を描く現代の黙示録。
マイナスをすべて集めればプラスに転化しうるー思索に思索を重ねた末に辿りついた、後年のドストエフスキイの逆説の世界観がちりばめられた後期傑作8短篇。文庫本初収録。
いつまでもベッドを離れないオブローモフだったが、知的な少女オリガとの出会いによって、胸をはずませ、明るい未来の展望さえ思い描くに至った。しかし、それも束の間、結局は、この愛もオブローモフを現実生活に正面から立ち向かわせることはできないのだった。
懶惰と無気力が骨の髄までしみこんでいるロシアの青年貴族オブローモフ。オネーギン、ペチョーリン、ルージンなどの系譜につらなる「無用者」「余計者」の典型を見事なまでに描き切ったゴンチャロフの代表作。
たとえ幾千人幾万人が天上のパンのためにお前の後にしたがうとしても、天上のパンのために地上のパンを蔑視できぬ幾百幾千万の人間はどうなるというのかーイヴァンはキリストを否定し糾弾するこの『大審問官』のドラマを、アリョーシャの前に語ってきかせる。
貪婪淫蕩な父フョードルの血をうけた三兄弟ー激情にまかせ放縦無頼の日々をおくるドミートリイ、徹底した無神論者の理性人イヴァン、そして無私の愛にみちた敬虔純真なアリョーシャ。僧院での一族の会合から、雄大深遠な思想のドラマの幕はあがる。