著者 : 細谷正充
明治維新の英傑でありながら、新政府に叛旗を翻した男・西郷隆盛。歴史に大きな足跡を残しながらも、さまざまな謎に包まれたその実像を、盟友や家族といった周囲の人々の目を通して浮かび上がらせた傑作短編集。江戸無血開城に至るまでの勝海舟との交流(海音寺潮五郎「西郷隆盛と勝海舟」)、西南戦争にも従軍した息子・菊次郎から見た父の意外な姿と親子の絆(植松三十里「可愛岳越え」)など、五編を収録。
外様として徳川家康に仕えた井伊直政は、“赤備え”の精鋭部隊を組織しつつ、知謀と胆略を発揮、頭格を現わし、徳川きっての策謀家・参謀として家臣の筆頭格を占め、彦根藩主、大老職を務め、幕末まで徳川家、幕府に貢献した。その豪雄と悲愴、維新後の苦難までを描く、名門井伊家の本質と実態を描く傑作七篇。
日本刀ほど、実用性と美を兼ね備えたものは世界にも稀である。霊性さえ備えた名刀に興味を惹かれる入り口は多々あるが、その初手として優れた書き手の短篇小説はいかがだろうか。傑出した刀剣は、実用性と美のみならず、読み手の心を掴む物語も帯びているのだー。苛烈な父によって鎧作りに邁進していた虎次郎が、刀工として名を成すに至るまでを描いた柴田錬三郎「虎徹」。海音寺潮五郎が呪われた剣の真実を探った「村正」を始めとして、東郷隆「試し胴」、赤江瀑「艶刀記」、澤田ふじ子「贋の正宗」、山田風太郎「ガリヴァー忍法島」の六篇を収録。
刀は武器でありながら、芸術品とされる美しさを併せ持ち、のみならず霊気を帯びて邪を払い、帯びる武将の命をも守るという。武人はそれを「名刀」と尊んで佩刀とし、刀工は命を賭けて刀を作ってきた。そうした名刀たちの来歴や人々との不可思議な縁を、名だたる小説家たちが描いた傑作短編を集めました。浅田次郎「小鍛冶」、山本兼一「うわき国広」、東郷隆「にっかり」、津本陽「明治兜割り」に、文庫初収録となる好村兼一「朝右衛門の刀箪笥」、羽山信樹「抜国吉」、白石一郎「槍は日本号」を収録。
「女」という漢字を分解すると、“く”“ノ”“一”-女忍者の通称である。そのくノ一を主人公にした、傑作六篇を収録。真田方の忍者と徳川方の女忍の因縁のドラマ。愛する新妻が隠密だと知った夫の苦悩。男たちの間を流転する忍びの悲哀…。戦国乱世の裏で、江戸時代の泰平の底で、くノ一たちが濃艶に、きらびやかに乱舞する。本邦初のくノ一アンソロジー、ここに見参!オリジナル文庫。
一九七八年に第八十回直木賞を受賞した『大浪花諸人往来』シリーズから、秀作を選りすぐって全四巻で復刊している「なにわの源蔵事件張シリーズ」待望の最終巻の登場。今巻は、謎解きの色合いがさらに深く、濃さを増し、知能犯あり(『絵図面盗難事件』)、寄想天外な犯行あり(『脱獄囚を追え』)、偽者あり(『汚名をそそげ』)などの全五編を収録。文明開化期の浪花の町に起きる事件を解決すべく、「海坊主の親方」こと赤岩源蔵が、人力車に飛び乗り、今日も行く。
ジョージ秋山氏初の文庫カバーイラストでも話題の「なにわの源蔵事件帳」シリーズがいよいよ第三弾に突入!旧幕府時代は十手取縄を扱い、明治に入っても捕り物を生きがいとする「海坊主の親方」こと赤岩源蔵が、今日も人力車に乗って浪花の町を走り回る。
旧幕府時代は十手取縄を扱い、明治に入っても捕物を生きがいとする「海坊主の親方」こと赤岩源蔵。その異名は、かつて天誅組を追っていたときに左耳を削ぎ落とされたその特異な容貌と相まって称されるが、一本気で豪快ながら、冴え渡るひらめきは、さながら名探偵そのもの。その名解決ぶりに思わず拍手を送りたくなる!本作は、一九七八年、第八十回直木賞を受賞した『大浪花諸人往来』シリーズから、秀作を選りすぐって復刊する全四巻のうちの第二弾。捕物帳作品の中では異色ともいえる明治開化期の大阪を舞台に、当時の社会状況や文化、風俗などが生き生きと甦る。
捕物帳作品といえば、江戸時代の江戸市中を舞台にしたものが主流の中で、本作は、時代も舞台も異色中の異色として大喝采を浴び、1978年、第八十回直木賞を受賞。81年には、桂枝雀主演によりNHKでテレビドラマ化された作品。ユーモアに溢れ、痛快至極の有明ワールドが完全復刊。
戦国時代に編み出された秘剣・水鏡をめぐる剣の妙(戸部新十郎「水鏡」)、弓の名手の浪人父娘が仇討ちの旅に疲れた兄妹を救う爽やかな人情譚(澤田ふじ子「鳴弦の娘」)、馬を制御するための道具・鼻ねじりでサーベルと戦う奇抜な武芸の物語(佐江衆一「鼻くじり庄兵衛」)、素手の武芸・柔術家の才能と心の成長のズレを描く師弟の悲劇(池波正太郎「柔術師弟記」)など、武芸の妙技が堪能できる秀作8篇を収録。細谷正充・編の好評アンソロジー第4弾。
己の力だけを信じ、家族も捨てて戦乱の世を激しく生きた武士。大名同士の見栄と意地の張り合いを描いた滑稽でどこか物悲しい元禄の武士道。“千石でなければ士官せず”と毅然とした姿勢を崩さず生きた貧乏浪人とその母親。戦国乱世を無双の豪勇をもって駆け抜け、凄烈な生涯を終えた武辺者。薩長の新政府に仕えるのは武士の意地に悖ると、自らの意思を貫いた剣客最後の輝きを描いた剣豪小説、など、珠玉の物語7篇。
誰からも見捨てられた旧主に仕える忠義な元家臣とその恩義に報いようとする旧主の思い、弟を見捨てた幼い日の後悔を「ごめんよ」の一言に万感の想いを込めて世を去った兄、藩主の寵姫とその息子に無私の忠誠と憧憬を捧げ愚直な生き方を貫いた男、老いたる戦国武将が彼を慕う少年武士へ注ぐ情に満ちた心意気、11歳の幼い少女の健気な決意と江戸の人情を描いた物語、など、世情に左右されない爽やかな生き方、愛のあり方を教えてくれる人間賛歌。涙を呼ぶ名作9編。
「よいか、武士の一生は束の間のことぞ」「はっ」「その束の間をいかに生くるかじゃ」「おお」「まいれ」二人の体躯が地ひびきをたてて飛びちがい、刃と刃が宙にきらめきー。池波正太郎の「武士の紋章」はじめ、弓技の腕前を秘した奥ゆかしい弓の達人、「武士の心は石高などでは計れぬものぞ」と武士道の本義を守り通した男、孤独に耐えながらも使命に邁進する悲しくも美しい魂を持った男、など、己を潔く生きた武士たちの珠玉の物語8篇。至芸の筆が冴える。
シーズンオフの別荘地に拳銃を片手に迷い込んだ娘と、別荘地の保安管理人として働きながら己の生き方を頑に貫く男の交流を綴った表題作をはじめ、飯倉の裏通りにあるバーを根城にする一匹狼のもめごと処理屋を描いた『ジョーカーの選択』、未来の巨大ホテルを舞台に、最悪の麻薬・ローズショットの中毒者で、常に死を見つめながらホテル探偵を続ける男を描く幻のSF連作短編『ローズ』ほか、大沢ハードボイルドの人気シリーズの役者がすれ違う、ファン必読の『再会の街角』を含む9編を収録した出色の短編小説集。