著者 : 萩原ちさと
「助けて!雇い主に私たちの赤ちゃんを奪われそうなの!」大聖堂に駆け込んだスカレーレットは2000人の列席者の背後から叫んだ。祭壇に立つ花婿はイタリア出身の辣腕経営者ヴィン・ボルジアー8カ月前、バーで出会った彼の魅力に抗う術もなく純潔を捧げた翌朝、彼の身分を知ったスカーレットは名前も告げずに姿を消したのだった。突然の珍客に驚きながらもヴィンは彼女を追ってきた雇い主を追い払い、政略結婚を取りやめて、スカーレットに父親鑑定と婚前契約を要求した。屈辱的でがんじがらめの条件のもとに、愛なき結婚をするなんて…。傲慢でセクシーな黒い瞳に見据えられ、彼女の心は千々に乱れた。
ジュリアス・レーヴェンズデールは堅実な人生を歩んできた。世間の耳目を集める名門一族の御曹司で会社経営もこなす傍ら、本来の天体物理学者としての研究にも余念がない。だがそんな多忙ながらも優雅な生活は、ある日を境に一変する。家政婦見習いのホリーが来てからだ。いや、見習いと呼べるのか?彼女は「家事は大嫌い」と言い放ってジュリアスを唖然とさせ、家政婦の手伝いもせずに、勝手に庭のプールで泳ぐ始末なのだ。このまま見過ごしてはホリーのためにもならない。怒った彼は彼女に迫るが、それが予想外の反応を引き起こし…。
リポーターのアリアンは、マノロ・デル・グアルドの屋敷を訪れた。著名な実業家であるマノロを、泊まり込みで取材するのだ。彼は妻を亡くしたばかりで、取材中も赤ん坊が泣く度に中座した。生後6カ月の娘がなつかず、ナニーがすぐに辞めてしまうのだという。その夜、アリアンは激しく泣く赤ん坊の声を聞きつけた。子供好きなのに子供をもてない体の彼女は衝動を抑えきれず、声を頼りに子供部屋へ向かうと、赤ん坊を懸命にあやした。アリアンの腕の中で安らかな寝息をたてはじめた娘を見て、部屋に入ってきたマノロは驚くべき提案をする。「このまま屋敷に残って、娘の面倒を見てくれないか」と。